イラク・アンバル州の治安情勢は依然不透明、雇用問題がカギに
3月24日、イラクのアンバル州で今、再び緊張が高まっている。写真は同州のファルージャで昨年11月に撮影した、建設中のコンクリートフェンスの周囲をパトロールする警察官たち(2008年 ロイター) [拡大]
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【ファルージャ(イラク) 24日 ロイター】 イラクのアンバル州で今、再び緊張が高まっている。反政府勢力のかつての拠点であり、2004年に米軍との激しい戦闘が繰り広げられた同州第2の都市、ファルージャを通る幹線道路では、複数のマーケットや自動車修理工場が商いを再開しつつある。しかし、失業問題や基本的な社会サービスの欠如、政情改善の遅れに対する怒りが、イラク国土の3分の1を占める同州の平和を脅かしていると言う人は多い。
イスラム教スンニ派部族の指導者、シェイク・ヤシーン・アル・バドラニ氏は「アンバル州の状況は今も確たるものではなく、以前に比べると平和だというだけ。嵐の前が必ず静かな時期であるように」と語る。
米軍は1月、アンバル州の治安維持責任を早ければ3月にもイラク軍側に委譲したいとしていたが、現在ではさらに慎重な姿勢を示している。ロイターとのインタビューに応じた同州駐留の米軍司令官、ジョン・ケリー少将は、委譲は近日中に行われるとしながら、具体的な日程を明言しようとはしない。
かつて部族員にアルカイダ系組織と対決するよう命じたことにより同州での暴力の減少に貢献したとされるスンニ派部族の指導者らは今、政治家たちに対するいら立ちを募らせている。
アンバル州の部族会議のメンバー、カマル・ノウリ氏は「アンバルの治安が安定したら状況は開発や復興の方に進むと思っていたが、われわれは今、政府からの放置に遭い驚いている」と語る。
かつて反政府勢力を組織して米軍・イラク政府軍と対決したスンニ派部族長の支持者の多くは現在、イラク軍や警察部隊といった「条件の良い」職を求めている。
<政治は混迷、雇用創出がカギに>
かつては製造業の一大拠点として栄えたアンバル州だが、当時数千人を雇用していた工場の再開を目指す施策は、ほとんど手付かずの状態。ファルージャ市議会と米軍は、雇用の創出が継続的な治安の安定に不可欠だと口をそろえる。
同市議会のシェイク・ハミード・アル・アルワニ議長によると、失業者の数はファルージャだけでも2万人。同議長は「われわれが懸念しているのは、失業者たちが生計を立てるため悪い方向に向かうことだ。アルカイダには豊富な資金力があるため、若者たちのことが心配だ」と打ち明ける。
イラク北部の州では、アンバル州とバグダッド周辺から排除されたアルカイダなどの反政府勢力が、再編の動きを続けている。
米軍のケリー司令官は、こうした勢力は現在も脅威であり、かつての拠点に注目を集めるため大規模な攻撃を計画している可能性もあるとしている。その上で、今後実施予定の選挙結果に市民の期待が反映されなかった場合には、市民による暴動が起こる可能性もあると指摘した。
スンニ派の人々の大半は2005年に行われた地方選をボイコットしており、市議会は自分たちの利益を代弁せず、失業問題や社会サービス問題への取り組みも遅れているなどと批判していた。
ケリー司令官は先週、アンバル州での暴力を食い止めるためには、一日も早い地方選の実施が必要だと述べた。
<悲劇が繰り返される恐れも>
アンバル州の治安の好転にとって重要なのは、アルカイダとの対決を掲げるスンニ派部族が中心となり設立した「覚醒(かくせい)評議会(Sahwa)」。部族長たちが率いる同評議会では、メンバーの大半がかつて反政府勢力として戦った経験を持つ。
米軍は地域のパトロールなどを行う評議会メンバーに対し月300ドル(約3万円)を支払っているが、メンバーの多くはより給与の高い軍や警察に加わることを望んでいる。
警察で教官を務めるアーメッド・マーティー氏は「もしもSahwa(覚醒評議会)がイラク軍に統合されなければ、あつれきが生じるだろう。(評議会メンバーは)われわれと一緒にテロリストたちと戦っており、(その結果)多くが死んでいるのだ」と語る。その上で「もしもこの状況が続けば、悲劇がまた繰り返されるのではないかと懸念している」と述べた。
中央政府がかつての反政府勢力を治安部隊に吸収することに消極的な一方、同評議会の指導者たちはすでに政党を組織し、ことし10月1日までの実施が予定される地方選に望みを託している。
(ロイター日本語ニュース 原文執筆:Mohammed Abbas、取材協力:Fadel al-Badrani、翻訳:植竹 知子)
2008/03/26 13:13