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2002年12月29日(日) 東奥日報 社説



■ クローン人間作り禁止を

 英国で世界初の体細胞クローン羊「ドリー」が誕生したのは一九九六年のことである。以来、マウスや豚、猫などでも成功し、九八年七月には初のクローン牛が石川県で生まれた。

 クローンは、皮膚や血液などの体細胞の核を、あらかじめ核を取り除いた卵子に入れ、受精卵と似た性質を持つクローン胚(はい)を作り、それを母体に戻して誕生させる技術だ。

 羊や牛などのクローン誕生成功によって、人間でもクローンをつくり出すのは技術的に可能なのではないか。そんな発想から、クローン人間づくりに着手する医師や団体が出現した。

 新興宗教団体ラエリアン(本部スイス)が設立した「クローンエイド」社もそんなクローン人間づくりを進めている会社だが、ついに世界で初めてクローン人間の女児を誕生させたと発表した。

 今後、女児がクローンであることを裏付けるDNAによる証明が行われるということだが、事実とすれば、人間の尊厳を冒す許されない行為と言わざるを得ない。

 牛や豚でも成功したから、人間にも適用できるという考え方に戦慄(せんりつ)を覚える。神の領域ともいえる生命誕生の世界に侵入し、「人間のコピー」をつくる風景は恐ろしいことの始まりを予感させる。悪夢としか言いようがない。

 クローンはまだ実験段階の技術で、危険が大きすぎる。だが、そんな技術の問題以前に指摘すべきは、人の生命を細胞という単位でモノ扱いし「人工生殖」をもてあそぶ短絡した行為である。

 人間の複製をつくる生命科学の暴走は許せない。医師や団体による一切の計画中止と、クローン人間づくり全面禁止の国際条約を早期制定するよう強く求めたい。

 日本では昨年六月に「クローン技術規制法」が施行された。クローン羊や牛などが次々と誕生し、人間への応用が懸念されるようになったことから法律で禁止した。

 クローン人間の誕生は安全性や倫理上、社会に重大な影響を及ぼす。人の精子や卵子を試験管の中で自由に操り、特定の人間と全く同じ遺伝情報を持つ複製をつくるのだから、法律で禁止するのは至極当然のことである。

 欧州の各国も法律で厳しく禁止しているが、米国は法規制していない。だが、今回のクローン女児誕生の報にブッシュ大統領は強い不快感を示し、来年一月招集の議会で、ヒトクローン禁止法案を成立させたい意向を明らかにした。

 法律などの規制が行われていない国は、クローン人間づくりを進める側にとって好都合である。まだ法規制のない国は、早く禁止措置を講じてほしい。国連では、今年の二月からクローン人間禁止条約の検討を開始したが、取り組みは鈍い。全面禁止へ向け早期に条約を制定するよう求めたい。

 クローン人間づくりについて、専門家は高い危険性を指摘している。動物のクローンでは流産や死産、胎児の異常が発生している。

 クローン動物は外見上正常でも生まれた後に感染症などを起こして死亡しやすい。遺伝子レベルでは異常が多く、人間に応用できるほどクローン技術はまだ確立されていないのである。

 さらに、クローン人間の出現による社会の混乱は避けられないだろう。自然の受精により生まれてくる子どもは両親の遺伝情報が入っている。だが、クローン児はコピー人間だ。親はそんな子どもを自分と全く同じ分身と見るのか、子どもと見るのか。予想もつかない事態が起きかねない。

 成長し、自分がクローン人間と分かった場合の本人や親の苦しみも想像を絶する。いくら科学技術が進歩しても一線を画すべき領域がある。クローン人間づくりを今すぐやめてほしい。


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