2008年03月25日 柏木理佳(中国経済ジャーナリスト)
胡錦濤体制が続く限り、もはやチベット問題は抑えきれない
さらに今後はチベットだけでなく、中国全土で貧富の格差、インフレ対策などにおいて不満が爆発し、小規模なデモがあちこちで見られることになることが予測される。これまでは弾圧を怖がっていた中国人たちが、チベット人の信念をみならうことにでもなったら、デモの勢いはさらに拡大し、全土に飛び火する。
中国政府が何より阻止したいのは、チベット独立問題が国際化することである。それなのに、今回、中国政府にとって誤算だったのは、情報を統制できているはずの中国で、政府の規制をかいかぐってユーチューブにチベット自治区ラサでの騒乱を伝える動画が流れたことだ。また携帯電話によるショートメッセージで情報が交換されたり、海外サイトへのアクセス制限を解除する専用ソフトまで、国内に出回っている。中国国民は、政府のメディア規制を知り、外国メディアへの信頼が高まっている。さらにこの情報の流出が海外メディアを通して、国際世論を動かすまでにいたっている。
多くの火種を抱えた中国で
五輪は無事に開けるのか
昨年11月に民主党の鳩山由紀夫幹事長らがダライ・ラマと会談したことで、中国は民主党に対して、「今後民主党幹部が中国を訪問しても中国要人に会えなくさせる」と圧力をかけた。経済面から考えれば、台湾やチベット側に立つよりも中国市場を選んだほうが各国にとってメリットがあることは一目瞭然である。特に景気低迷が騒がれる日本にとって、中国への貿易依存度は高まるばかりで、簡単には切れない関係に陥っている。そういう意味では、中国が抑えつけることができるのは、日本の政治家だけかもしれない。
北京五輪を控えた中国には、多くの火種がある。模倣品や食品問題以上に、人権問題は最大のリスク要因である。台湾独立、チベット問題、スーダン内戦間接的支援問題……IOCはこれらを解決してから中国を五輪会場国に選ぶべきであった、IOCの責任も今後問われるだろう。
中国が胡錦濤体制のときに五輪開催に名乗りをあげた不幸もある。共産主義の悪あがきが通用せず、だからといって国際社会が提案する要求を即座に飲むことは、強気の中国政府にできるはずがない。別な言葉でいうと、胡錦濤が失脚し、胡錦濤体制が完全に入れ替わらなければ不可能に近い。
欧州を中心に、すでに北京五輪ボイコットの声が出始めている。このまま問題を終息させることができなければ、五輪をボイコットする国が出ることは避けられないだろう。そして胡錦濤体制は2012年の次の党大会まで維持できるのか、脅かされることになる。
第6回 | 胡錦濤体制が続く限り、もはやチベット問題は抑えきれない (2008年03月25日) |
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- 柏木理佳(中国経済ジャーナリスト)
嘉悦大学短期大学部准教授。富士通総研研究員。豪州テイラー大学卒、北京首都師範大学留学、豪州ボンド大学院MBA取得。香港で国際線客室乗務員、NHK契約アナウンサーなどを経て、中国、マネー分野の専門家として活躍。『柏木理佳の中国産業「宝」地図―成長する中国、ダメな中国の見分け方』『中国株でお金持ちになる』など著書多数。柏木理佳ホームページ
驚異的な成長の中で、社会や経済の歪みを孕む膨張大国・中国。中国経済の専門家が、日本人には驚きの中国の知られざる現状をレポートする。
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