法曹人口拡大にブレーキ司法改革揺らぐ土台政府は25日の閣議決定で、司法試験の年間合格者数を2010年ごろまでに3000人程度に増やすとの計画の「前倒し達成」を断念し、これまでの増員姿勢からの転換を印象付けた。過当競争を懸念する弁護士会などの声が背景にあり、司法制度改革の理念だった「弁護士の数を増やし、国民への司法サービスを充実させる」という政府の大きな目標は曲がり角に差し掛かっている。(宮井寿光、田中史生) ◆質の問題 「前倒しも消え、3000人の目標達成後の法曹人口を更に増やせという部分も消えた。意をくんでいただいてありがたい」 鳩山法相は同日の記者会見で閣議決定を絶賛し、自らの主張が反映されたと胸を張った。法相は2月、司法試験合格者数についての勉強会を法務省に設置。「日本を訴訟社会にすべきでない」と、2010年以降の合格者数を減少させることを検討しているからだ。 司法試験合格者の拡大を巡っては、昨年10月に中部弁護士会連合会が「弁護士の急速な増加で大都市などを中心に弁護士の飽和状態が生じ、弁護士の就職が困難な状況が生まれている」とし反対決議を行ったほか、各地の弁護士会が反対を表明し始めている。自民党でも「法曹養成・法曹教育及び資格試験のあり方に関する小委員会」が、昨年11月から適正な法曹人口について議論を始めた。 法相は、「3000人という数字はいいが、この目標を目指すに当たっては、法曹の質の確保が大前提になる」と強調する。法曹人口拡大への反対論の最大のよりどころとなっているのが、この「質」の問題だ。 しかし、関係者からは、「これまで極端に少なく抑えてきた司法試験合格者の数を飛躍的に増やそうとすれば、ある程度、質の問題が生じるのは避けられない。そういうことも含めて国として司法制度改革を進めてきたのではなかったのか」との声が出ている。 弁護士は都市部に集中しており、法務省によると全国の地裁・支部の管内で、弁護士がゼロか1人の「ゼロワン地域」は24にのぼる。今回の閣議決定について、宮沢節生青山学院大法科大学院教授は「司法制度改革審議会の意見から明らかに後退する。十分な合格者数が確保されなければ有能な人材は法科大学院を目指さなくなり、法曹の質はますます低下する。弁護士増員が続かなければ司法過疎地に進出する弁護士は増えない。裁判官や検事が増えなければ事件処理の充実は望めない。早急に見直すべきだ」と批判する。 ◆産みの苦しみ そもそも司法制度改革は、小渕内閣が1999年7月に司法制度改革審議会を設置し、「今まで国民から縁遠く高根の花だった司法を国民に身近で頼りがいのあるものにする」(審議会長だった佐藤幸治近畿大法科大学院教授)ことを目指して議論を始めた。 同審議会は01年6月、当時の小泉首相に〈1〉国民が刑事裁判に裁判官と共に加わる裁判員制度の導入〈2〉04年度から法科大学院を開始〈3〉10年ごろに司法試験合格者数を3000人とする――ことなどを柱とする最終意見書を提出した。 これを受け、政府は同年12月、司法制度改革推進本部を設置。02年11月に法科大学院や新司法試験について定めた法科大学院設置関連法、04年5月には裁判員制度を創設する裁判員法と、日本司法支援センター(法テラス)を整備する総合法律支援法を成立させるなど、関連法を次々と整備した。今後は09年5月までに裁判員制度が始動、10年を最後に旧司法試験が廃止されるスケジュールとなっている。 いわば、司法制度改革は国家戦略であり、司法試験合格者数の大幅増加はその根幹を成すものだ。 このため、佐藤教授は「審議会の意見書を実現する24本の法律はほとんど全会一致で成立した。改革は国民の総意だ。司法試験の合格率の低迷、裁判員制度が十分な国民的理解を得られていないなど、問題があるのは確かだが、いわば産みの苦しみで、改革に向けての歩みは着実に進んでいる」と指摘している。 (2008年3月26日 読売新聞)
ジョブサーチ全体の前後の記事
|