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経営学のモデルケース

2008年03月27日

 筆者は03年7月に「自治体銀行」というタイトルでこのコラムに掲載したので、ご覧頂ければ幸いである。

 新銀行東京は、銀行論の教科書で紹介されることはないが、経営学や組織論、行政論などでは格好の研究事例になる。

 経営学的には以下の点がユニークといえる。

・利益相反 巨額の赤字といった不芳事態が生じたとき、企業は通例2種の調査報告を行う。「責任追及」報告は多く利害関係者が作成するので信を置き難いが、この銀行のものは利害関係者からの「弁明書」の類に過ぎない。まして「原因究明」報告にははるかに遠い。

・企業統治 この銀行では取締役会が経営方針と監督に全責任と権限を有し、執行役をいつでも解任出来る。執行役に欺かれたなどは言い訳にもならず、その実態は取締役会議事録を提出させれば隠しようもない。

・人材 「資本や顧客がなくとも、優秀な人材がそれらを生み出してくれる」といわれるが、役員が頻繁に交代する経営では人は育たず、資本や顧客は瞬く間に失われる。

・株主権 この銀行のオーナーは都である。都はいつでも取締役も執行役も解任できるので、無策の果てに1000億円をドブに捨てた責任は免れようもない。

 一方で、都は銀行ベンチャーに投資したファンド運営会社のようなものだが、預かった1000億円をすった不良ファンドマネジャーに400億円も追加で出すお人よしはいない。

 装置産業である銀行業で大幅な縮小戦略が成功する可能性は乏しく、残された選択は、最小限のコストで、顧客や都民に迷惑をかけずに撤収することしかない。もしも出来れば破綻(はたん)処理のモデルケースとなるかもしれない。

 だが、都民に更なる負担を掛けるようなことがあれば、新宿の要塞(ようさい)に棲(す)む人々の、都民への裏切りはここに極まるというしかない。(灌圃)

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