契約名義人から「NHKと契約していいよ」という意思表示を受けていないのにその人の名前で契約してしまった場合、その契約した人は無権代理人となり、契約名義人は無権代理人による契約を取り消すことができます。
「こんな契約は解除できる!!!」のNo8参照)

民法 第113条 
代理権を有せざる者が他人の代理人として為したる契約は本人がその追認を為すにあらざればこれに対してその効力を生ぜず。


これに対してNHKより反論があった事例が報告されています。
それらについて検証してみましょう。


■前提条件
■NHKの反論
■法文確認
■妻がした契約が有効になった判例がある?
■受信契約は日常家事?
■受信契約は日常家事?(その2)
■説明義務は申込人(NHK)にアリ?(顕名主義)
■これまでの判例は受信契約には当てはまらない?
■表見代理は成立するか?
■NHK的に「妻が書いた夫名義の契約」を有効にするには?



■前提条件

・妻も夫も契約に納得していない
・妻がしぶしぶ契約させられた
・その際夫の名前を書いた

・夫が無権代理人による第三者契約として民法113条
 「代理権を有せざる者が他人の代理人として為したる契約は 
 本人がその追認を為すにあらざればこれに対してその効力を生ぜず。」により契約無効を主張
・妻も契約時の判断が誤っていたとして無効を希望
(夫⇔妻の場合も同様)

    

■NHKの反論

(1)「妻がした契約が有効になった判例がある。だから受信契約の場合も有効だ」
(2)「受信契約は日常家事にあたり民法761条により契約は有効だ」

(3)「民法110条により有効だ」

※NHKより異議が無ければ、民法113条により契約無効


■法文確認

民法 第761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。但し、第三者に対し責に任じない旨を予告した場合は、この限りでない。


民法 第110条 
代理人がその権限外の行為を行った場合において、第三者が「その権限あり」と信じるのに正当な理由がある場合は前条の規定を適用する。

「前条の規定」とは↓

民法 第109条
第三者に対して他人に代理権を与えたる旨を表示したる者は、その代理権の範囲内においてその他人と第三者との間に為したる行為に付きその責に任ず


761条をよーく御覧ください。
「日常の家事により発生した債務は夫婦の共同債務である。」といったことが書いてありますが、
妻が夫名義でした契約の有効性(代理権)に関して記載されたものではありません。
法文だけを読み取ると、日常家事であろうがあるまいが、前提条件の状態では契約無効となります。



■妻がした契約が有効になった判例がある?

※まず断言しときますが、「NHK受信契約において」妻が夫名義でした契約が有効になったという判例はありません!
ただし、受信契約以外の事例としては確かにあります。
文理解釈としては前述の通り妻が夫名義でした契約は無効なわけですが、
実は最高裁の判例で以下の記述があります。(S44.12.18 第一小法廷・判決 昭和43(オ)971)


一、民法七六一条は、夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解すべきである。

二、夫婦の一方が民法七六一条所定の日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権を基礎として一般的に同法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定すべきではなく、その越権行為の相手方である第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、同条の趣旨を類推して第三者の保護をはかるべきである。


NHKはこの判例にすがっているわけです。

※「第三者の保護をはかるべきである」ってありますよね。そもそも何らかの対価ではなく一方的にコチラが支払う受信契約において、第三者(NHK)の保護は必要か?この判例で言ってる趣旨とは違うんじゃねーの?と疑問がありますが、そこは一歩退いて進めます。(裁判になったらこれはこれで攻めてください)

あっそうそう、NHKの下記の主張についてですが
「妻がした契約が有効になった判例がある。だから受信契約の場合も有効だ」
確かに妻がした契約が有効になったものはいくつもありますが
逆に無効になったものも多々あるわけです。(平成14年(ハ)第11484号 等)
ってことは
「妻がした契約が無効になった判例がある。だから受信契約の場合も無効だ」
が言えるのか?ってことになります。
何て頭の悪い言い回しでしょう。放っておいて次に行きましょう。



■受信契約は日常家事?

※まず第一に「但し、第三者に対し責に任じない旨を予告した場合は、この限りでない」により「夫(妻)に聞かないと分からない」「夫がいるときに来てください」「自分では判断できない」等を伝えていれば、例え受信契約が日常家事であったとしても民法761条は適用されません。NHKの反論の余地はありません。


「日常家事」としての定義はこうです。


日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。(判例抜粋)


※この時点で、少なくとも個々の夫婦の条件を知り得ないNHKが「この夫婦にとって受信契約は”日常家事”だ」と断定できるようなものではないと分かるはずです。

もう一つ判例を見つけました。


民法761条の「日常の家事」とは,「夫婦の共同生活に通常必要とされる事務」を意味するが,これが夫婦の連帯責任とされる理由は,このような事務は夫婦が共同で処理すべき事務であって,対外的に夫婦のいずれか一方の名前で行われても,他方がこれに承諾を与えている場合が通常であり,仮に内部的には承諾を与えていないことがあるとしても,取引の相手方は,承諾が与えられていると信じ,夫婦と取引をするとの意思で行うのが通常であることを踏まえ,相手方を保護する趣旨によるものと解される。
(H14.12.26 東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第11484号 売買代金請求)


「他方がこれに承諾を与えている場合が通常であり」が日常家事である為の基本的な条件の一つかと解されます。

例えば、契約自体は既にしていて、月々の支払いに関して集金人に妻が支払っていた場合は
妻が夫より「通常」承諾を与えられていると考えられるかもしれません。
「受信料の支払い」に関してはこの点では(他の要素は無視して)日常家事と考える事ができる可能性はあるかもしれません。
しかし、「受信契約の締結」自体に関して言うと、少なくとも「通常」承諾を与えているものではないでしょう。
契約自体が「通常」行われるものじゃないですもん。(普通は一生に1回でしょう。引越した場合は変更届だし)
よって、この点でも受信契約は日常家事でないといえるのではないかと思います


…でも一応、上記以外のアプローチで更に「受信契約は日常家事」説を否定してみますか。



■受信契約は日常家事?(その2)


《日常家事か否かの判断について》

(前述のものを除いて)各判例から推測するに主に下記のポイントから判断されているようです。

※例題右の(有・無)は「日常家事として判断される可能性」を表します。
 ただし、あくまで判断要素の一つであり、「有」のものが直ちに日常家事と判断されるものではありません。
 最終的には複合的に判断されます。


●生活に関することである必要あり。ただし「夫婦間(家族間)の」というのが条件。

・(個人の)娯楽の為の借金⇒無
・家族の生活の為の借金⇒有
・夫(妻)とは別居中で、自分だけの生活の為の借金⇒無


●日常の家事における「必要性」ではなくて「有用(有益)性」が判断材料の一つ。

・「無くても困らんがありゃ便利だわな」⇒有
・「有ってもいいけど全く役に立たん」⇒無
有益性はあるが日常家事では無い場合
・「ありゃ便利だけど高すぎ(有益性<デメリット)」⇒無


●日常家事の判断は、個々の家庭環境や条件による。

・(一般論として)普通の電子レンジ⇒有
・月給6万円の家計に対して100万円の電子レンジ⇒無
・月給500万円の家計に100万円の電子レンジ⇒有



※一般論として「コレコレは日常家事に含まれる」というものはありますが、あくまで一般論であって確定ではありません。
個々の家庭環境や夫婦間の生活について知りえない第三者が「この夫婦に対してコレコレは日常家事」と断言する事は不可能です。

ちなみにこの「一般論」であげられている項目には「受信契約」はありません。


「NHK放送」について

●「生活に関すること」
…テレビを見ることは生活の一部と言われるとそんな気もする。

●「有用性」
…見れば情報入る、なくてもいいけどありゃまあいいかな。


「放送」そのものに関しては日常家事かどうかと言われると完全否定はしにくいかもしれない。
しかし「受信契約」は「放送」とは何らかかわりの無い法律行為である。

「受信契約をして受信料を支払わなくてもNHK放送は見ることはできる」というのは一般常識
…とまでは言わないが、多くの人が知っている。
海老沢NHK会長の国会での発言
・受信契約に強制力無し。信頼関係がなければ受信料は集まらない。
これに加え、実際の現場で契約を取る際には
・受信契約は受信の対価ではない
・見る見ないは関係ない
と言っている。(コールセンター等に問合せても同回答)
「放送を見ること」と「NHK受信契約」は全く別物である。


「NHK受信契約」単体として

●「生活に関すること」
…受信料払っても対価として受け取るものは何も無く生活には全く影響なし。

●「有用性」
…対価として何も受け取るものは無く、こちらがただ一方的に支払うものに有用性などナッスィング


「NHK放送」を日常家事だと認める要素はあると考えられますが、「受信契約」を日常家事だと認める要素は一切ありません。個々の家庭環境等を考慮するまでもありません。

※「受信契約」が「NHK放送」を見ることの対価であると言うならば、「受信契約」も日常家事に含まれる可能性はあるかもしれない。
しかし、その場合は「NHK放送を見ないから契約しない」「見なくなったから解約する」を認めないといけません。


例えば受信契約でなく他の契約(買い物)の場合、日常家事じゃないとして契約無効ってなったら相手(お店の人)が可哀想じゃーないか…と思われるでしょう。
契約が無効になる、っていうことは、「初めから何もなかったことになる」ってことです。契約する前の状態に現状復帰します。原状回復する場合は返せるものがあったら返して、返せなかったら等価を支払う、ってことでいいと思います。ってことで相手側が一方的に損するってわけでもありません。
例えば受信規約の場合、受信料=受信の対価だったら、見た期間分は支払わないといけないかもしれません。
しかし、NHKが受信料=受信の対価ではないと主張していますので、返すものがありません。支払った受信料を返してもらうだけです。


■説明義務は申込人(NHK)にアリ(顕名主義)


民法第99条の1項には
「代理人がその権限内に於いて、本人の為にすることを示して為したる意思表示は、直接本人に対して其の効力を生ず」
という条文があります。ここでいう「本人」とは、契約者本人、すなわち「代理人に代理した人」を指します。
この条文では、代理人が第三者と契約する際に、「本人の為に契約します」と意思表示すれば、直接契約したのは代理人だとしても、あたかも本人が契約したかのように扱う、っていう内容です。

言い換えれば、99条1項は「代理契約の効果が本人に生じるためには、誰のための契約かハッキリさせなさい」と言っているのです。この「代理契約の際は誰のための契約かハッキリさせること」を「顕名」と言います。そして日本国では顕名主義を採用しています。
この段階では、「顕名は代理人が行わねばならない」となってますが、これは、通常は代理人が契約申込人である場合が多いからです。そこで、民法99条2項の出番です。

「前項の規定(99条1項)は、第三者が、代理人に対して為したる意思表示にもこれを準用する」

つまり、99条1項は、「第三者が代理人と契約する際に、「本人の為に契約します」と意思表示すれば、直接契約したのは代理人だとしても、あたかも本人が契約したかのように扱う、っていう内容です。」ということになります。
結局、第三者が意思表示人だった場合は第三者が顕名を行いなさいと言っているのです。
受信契約で言えば、契約申込人はNHK側です。つまり、「顕名責任」はNHK側にあるのです。
顕名を行っていない以上契約の効果は本人に帰属せず、「顕名を怠った」のはNHKの過失なのですから当然ながら法的には保護されないでしょう。



■これまでの判例は受信契約には当てはまらない?


判例の話に戻りますが、「妻が夫名義で契約して有効になった判例」は全て(かどうかは探しきれてないので不明ですが)代理人が申込人であった場合です。
業者側が申込人であった場合の事例においては、(諸々の条件が絡みますが)日常家事債務範囲ではないとされた判例があります。(H14.12.26 東京簡易裁判所 平成14年(ハ)第11484号 売買代金請求)

電気やガス、水道等でもあくまで申込人は我々の方です。受信契約はNHKが申込人なので前者とは本質が異なります。
また、前者はあくまで対価契約です。判例でいろいろあるのも全て対価契約に関するものです。
NHKは受信契約は対価契約じゃないと言っておきながら、対価契約の判例を持ち出すなんて言語道断です。

前述しましたがもう一度。
「NHK受信契約において」妻が夫名義でした契約が有効になったという判例はありません!
「NHK受信契約と同質の契約において」もありません!


■表見代理は成立するか?
(代理人がその権限外の行為を行った場合において、第三者が「その権限あり」と信じるに正当な理由があるか?)

今回の事例に当てはめて言うと、NHKの集金人が「妻は夫の代理人として受信契約を締結する権限があるだろう」と信じるに正当な事情があるか否かになります。

例えば消費者側が申込人となってお店に出向いて契約する場合には、夫婦間の意思統一は既にされているものと予想できるかもしれません。
しかし、事前の連絡や内容の説明もなく突然訪れる訪問販売の場合、代理行為発生時(契約締結時)において夫婦間で意思統一できている可能性は低い(予め夫婦間で取り決めていた場合のみ除外)事は当然予想できる事柄であるため、NHK側がその時点で妻の代理行為が有権代理だったと信じるに正当な事情があったとは認めらないと考えられます。

※契約時に妻が「夫の代理人である」旨を宣言していた場合は、例え実際には代理権が無かったとしても民法110条により契約有効になってしまう可能性があります。(業者側が保護される)


■NHK的に「妻が書いた夫名義の契約」を有効にするには?

契約前に以下の手順を踏んでいればいいのです。
(契約後の確認ではいけません)

・契約内容すみずみまでの説明 は当り前として
・受信契約は世帯ごとの契約であり、代表者の名義となることを説明
・その世帯における代表者(受信契約締結の判断の決定権を持つもの)が誰かを確認
・今話している相手がその代表者であるかを確認
・代表者で無い場合は、契約締結に関する代理権を有しているか確認
・代理権を有すと示されなかった場合は、代表者がいる時を確認して出直す
 又は代表者に契約意思の有無の確認をしてもらい、代理権を持った状態がいつになるかを確認して出直す

たったこの程度のこと。やればいいのに。


作:ガボ+ななパパ+K2
文責:K2

注)私(我々)は法律のプロではありません。
内容については各々の責任で判断して下さいませ。
内容の不備等ございましたら
「反NHK相談所」までお願い致します。