現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月27日(木曜日)付 追加出資可決―「石原銀行」延命の重い罪再建の見通しが見えぬまま、巨額の税金を破綻(はたん)寸前の銀行につぎ込む。それを決めた東京都と議会の罪は極めて重い。 石原都知事の肝いりで設立された新銀行東京に対する400億円の追加出資が、都議会の委員会で可決された。あすの本会議で正式に決まる見通しだ。 私たちは社説で、追加出資をやめ、銀行業務からすみやかに撤退することを繰り返し求めてきた。 理由ははっきりしている。新銀行には再建の見込みも存在意義もほとんどなく、延命させると赤字がさらに膨れる。早く撤退すれば、都民の損失を最小限に抑えられると考えるからだ。 新銀行は無担保・無保証を看板にずさんな融資を繰り返した結果、累積赤字が1000億円に達した。都の出資額1000億円はすでに使い果たしてしまった。 預金も融資も大幅に減らす一方で、収益は倍増させて黒字化をめざす――。都が示した再建計画は夢物語にすぎない。追加出資するのは、石原知事や都幹部が責任追及から逃れるための一時しのぎとしか言いようがない。 とりわけ知事の責任は重大だ。 「都の監視責任について最終責任はトップである私にある。結果的にこのような事態になり、深くおわびする」。石原知事は都議会の質疑の最後になってそう述べた。知事の口から初めて出た謝罪の言葉である。 だがこれは、トップとしての結果責任を形式的に認めているにすぎない。石原知事は2期目の選挙公約で新銀行設立を打ち出し、懸念の声をよそに独自の経営方針を主導してきた。新銀行の中心人物なのだ。その責任から逃れるための言葉だと言わざるを得ない。 記者会見をして都民に謝罪し、せめて月約140万円の報酬を返上するぐらいのことをしたらどうか。 追加出資に賛成した与党の自民・公明両党の責任も重い。 新銀行発足の際、議会は「都も適切な経営監視に努める」という付帯決議をつけて出資を認めたはずだ。それが守られなかったにもかかわらず追加出資を認めたのは、筋が通らない。 来年夏には都議選がある。与党がこの重大な局面でどうふるまったのか、有権者は覚えておこう。 追加出資が実行されても、なすべきことは何ら変わらない。 まず、不良債権など新銀行の実態を外部の目で厳しくチェックしてもらう。それには、金融庁の検査にゆだねるしかない。同時に経営状況を監視して、再建は不可能と見極めたら、すぐに撤退へ向けた手を打つことだ。「監視組織を設ける」との付帯決議を、都議会はすぐに実行させなければならない。 臭いものにフタをし続けて済むわけがないことは、かつての金融機関の惨状を思い起こせばわかるはずだ。 税金の無駄遣いは認められない。 暴力団と会合―市長はつけ込まれるな不当な要求をする暴力団はきっぱりと排除する。その先頭に立つべき市長が暴力団組長とこっそり会っていたというのでは、暴力団追放も絵に描いた餅になってしまう。 舞台は栃木県鹿沼市である。市の工事を受注した業者に対し、暴力団が「片づけ処理をやらせろ」と要求してトラブルになった。談合があったとして、暴力団は市にも説明を求め始めた。 もめごとを収めようと昨年12月、阿部和夫市長が2度、暴力団組長と会って話し合った。そのうち1度は業者も一緒だった。 組長らが役所に来たため、職員は恐怖を覚えている。それならば自分が出かけて事態を抑えよう。それが市長の説明である。 組長と会ったことを「浅はかだった。反省している」としながらも、「職員を守る盾となった。そのことはよかった」と繰り返した。 もめごとを解決するため自ら乗り出した気持ちは、わからないわけではない。だが、求められるままに市長ひとりが役所の外へ出向き、暴力団と話し合うやり方が、本当に職員や住民を守ることにつながると言えるのか。 暴力団はしばしば自治体や業者に言いがかりをつける。そのうえで、入札で有利な扱いを求めたり、「下請けをさせろ」と要求したりする。 安易に会えば、つけこまれるのは目に見えている。その場は丸くおさまっても、次の介入を招きかねない。実際、市長は組長に対して「何かあったら、私にじかにでもいいので言ってください」と話していた。長い目でみれば、実に危うい対応だ。これでは暴力団と決別することにならない。 そもそも、なぜ市長が面会に応じたのか。元県議会議長に仲介されたというが、相手が威圧的な暴力団だったからではないか。 鹿沼市では01年、廃棄物処理をめぐって職員が暴力団関係者らに殺されるという痛恨の事件が起きた。この事件をきっかけに、「行政への暴力を許すな」という声が全国に広まった。 事件のあと、鹿沼市は暴力団などの不当な要求への対応マニュアルをつくっていた。「密室は避ける」「上司への面会要求は拒否する」「明確な言動で期待を持たせない」といった内容である。 市長が自ら対応マニュアルを破るような行動をとったのでは話にならない。 どうしても組長に会うというのなら、事前に警察に相談し、警察官の立ち会いなどを求めるべきだった。 警察庁などの調査によると、暴力団などから不当な要求を受けたことのある自治体は3分の1にのぼる。それだけ介入が広がっているからこそ、暴力団への強い姿勢が欠かせない。住民や職員を本当に守るためにも、自治体のトップはその覚悟をあらたにする必要がある。 PR情報 |
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