<おまへにあげよう/ゆるしておくれ こんなに痛いいのちを/それでも おまへにあげたい/いのちの すばらしい痛さを>。吉原幸子さんの詩『あたらしいいのちに』の一節
▼誰かがこの世に一つの小さな命をもたらす。それが、いくつもいくつも集まってできているのが世界だ。社会、と言ってもいい。この国の抱える問題に深刻でないものはないけれど、一つだけあげるとすれば、だから、やはり少子化だろう
▼このことは近年、くどいほど指摘されていて、政治家が「少子化対策」という言葉を口にしない日はないほどだ。政府も、それなりのお金を投じて施策をやってはいて、少子化問題担当の閣僚もいる。少しずつでも事態はよくなっていくのだろうと期待していた。しかし
▼このごろ、産気づいた妊婦が病院をたらい回しにされるといったようなことが、やけに度々起きる。そして、一昨日は、病院や医院が、お産から次々に手を引き始めている実態をつきつけられた。厚生労働省の緊急調査結果である
▼全国の産科医療機関のうち七十七カ所が、一月以降、お産を休止したり、お産の引き受けを制限したりすることを決めていた。産科医不足が主因で、長野県など五県の七カ所については、近隣の大学病院などから緊急の医師派遣を検討するという。当面はいいが、急場しのぎにしかなるまい
▼あれほど、少子化対策だ少子化対策だと、政治家も役人も言っていながら、一等肝心な子を産む環境が、こんなになるまで手をこまぬいていたとは。何とも、ちぐはぐである。