全国の産科医療機関のうち二十四都府県の七十七カ所で今年一月以降、医師不足のためお産を休止したり、お産取り扱い件数を制限したりすると決めたことが、厚生労働省の緊急調査で分かった。産科医療は危機的状態にあるといえよう。
調査によると、広島県の三病院がお産を休止または休止予定で、一病院が里帰り出産を制限している。岡山、香川県は該当がなかった。日本産科婦人科学会も一月に緊急医師派遣など必要な医療機関について調査したが、岡山県は五病院、広島県は二病院が必要と回答した。
本紙の連載企画「きしむお産」でも岡山、広島県東部の実態が報告されている。心身を擦り減らしお産に携わる医師らを通し、現場の深刻な実態が浮き彫りにされた。
産科医不足の背景には、長時間労働や高い訴訟リスクが若い医師に敬遠される現実がある。国も診療報酬の優遇措置や、出産事故で医師の過失がなくても患者に補償する制度創設などを打ち出しているが、効果のほどは不透明である。
お産の環境整備にも知恵を絞りたい。岡山大病院の周産期オープンシステムは、開業医が健診し、出産は病院の設備を使って行う。緊急時にも対応が可能で、妊婦の安全は高まろう。助産師外来や院内助産院などの取り組みは、健診や正常出産を助産師が担当することで医師の負担が減らせる。子育てで離職した女性医師の復職支援も医師不足に有効だろう。一方、妊婦は救急搬送での受け入れ拒否を避けるためにも、かかりつけ医を持つことが大切だ。
赤ちゃんを安全に産み育てる環境づくりのため多角的な取り組みが望まれる。国は産科医の育成や労働環境改善に本腰を入れる必要がある。