政府の道州制ビジョン懇談会が、明治以来の中央集権体制を解体し、「新しい国のかたち」として「地域主権型道州制」を導入すべきとの中間報告を増田寛也総務相に提出した。導入時期や目的を定めた道州制基本法案を二〇一一年の通常国会に提出し、一八年までに完全移行するよう求めている。
中間報告は、中央集権体制は日本の近代化や戦後の復興に役割を果たしてきたが、日本経済が一定レベルに達した今では弊害の方が大きいと指摘した。東京一極集中やそれと裏腹の地方の疲弊を招いており「古い国のかたち」は改めるべきとしたのは説得力がある。
示された制度設計によれば、国の役割は外交や安全保障、通商政策など十六分野に限定し、道州は市町村の範囲を超える公共事業や産業振興などの広域行政を担当する。基礎自治体である市町村が消防、社会福祉、小中高校、都市計画など住民に密着した行政を総合的に担う。
道州制下の税財政制度など今後の議論にゆだねた部分もあるが、政府の地方分権改革推進委員会が先に打ち出した「地方が主役の国づくり」の考え方と合わせれば未来の分権社会の姿が浮かび上がってくる。分権推進委は自主的な行政権、財政権、立法権を持つ「地方政府」の確立をうたい、自治体が国の法令を補正できる「上書き」権も認めた。この地方政府の役割を、道州が担うことになろう。
国の役割を小さくし、道州の体制を整え、市町村の行政能力を向上させる。実現させるために最も大切なのはこれらを順番にでなく、同時並行で進めることだ。国のありようを根本から変える大改革となる。道州制懇談会の中間報告は首相を長とする道州制諮問会議を内閣に設けるよう求めており、政治のリーダーシップに期待する。
地方が主権を持って各道州が創意と工夫を競い合えば、活力が生まれる。海外との経済や文化交流を東京経由でなく地域が直接、自由に行えるようになると期待できる。地域が活性化することで中間報告のいう「繁栄の拠点」が複数形成され、国全体の力も再び高まっていくはずだ。そのために、国のかたちを変えるのである。現状のままなら衰退していくだけだろう。
国の未来を開く改革だが、現状の延長線上で考えれば中央省庁の抵抗など壁が見えるばかりで、前へ進むまい。政治が、発想の大転換に基づく根本からの変革へ官民を引っ張っていかなければならない。日本の政治が底力を発揮する時だ。
全国の産科医療機関のうち二十四都府県の七十七カ所で今年一月以降、医師不足のためお産を休止したり、お産取り扱い件数を制限したりすると決めたことが、厚生労働省の緊急調査で分かった。産科医療は危機的状態にあるといえよう。
調査によると、広島県の三病院がお産を休止または休止予定で、一病院が里帰り出産を制限している。岡山、香川県は該当がなかった。日本産科婦人科学会も一月に緊急医師派遣など必要な医療機関について調査したが、岡山県は五病院、広島県は二病院が必要と回答した。
本紙の連載企画「きしむお産」でも岡山、広島県東部の実態が報告されている。心身を擦り減らしお産に携わる医師らを通し、現場の深刻な実態が浮き彫りにされた。
産科医不足の背景には、長時間労働や高い訴訟リスクが若い医師に敬遠される現実がある。国も診療報酬の優遇措置や、出産事故で医師の過失がなくても患者に補償する制度創設などを打ち出しているが、効果のほどは不透明である。
お産の環境整備にも知恵を絞りたい。岡山大病院の周産期オープンシステムは、開業医が健診し、出産は病院の設備を使って行う。緊急時にも対応が可能で、妊婦の安全は高まろう。助産師外来や院内助産院などの取り組みは、健診や正常出産を助産師が担当することで医師の負担が減らせる。子育てで離職した女性医師の復職支援も医師不足に有効だろう。一方、妊婦は救急搬送での受け入れ拒否を避けるためにも、かかりつけ医を持つことが大切だ。
赤ちゃんを安全に産み育てる環境づくりのため多角的な取り組みが望まれる。国は産科医の育成や労働環境改善に本腰を入れる必要がある。
(2008年3月27日掲載)