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岡山駅・突き落とし殺人:青少年の凶行、再び 遺族、声震わせ

 帰宅客が行き交う駅のホームは、突然の惨劇に一時騒然となった。25日深夜、JR岡山駅で男性が少年に線路に突き落とされ、電車にはねられ死亡した殺人事件。今春、高校を卒業したばかりの容疑者の少年は「誰でもよかった」と供述しているという。茨城県土浦市の8人殺傷事件でも24歳の容疑者が同様の供述をしている。相次ぐ青少年の自暴自棄ともいえる不条理な凶行。亡くなった岡山県道路建設課主任、假谷国明さん(38)の自宅では26日、悲報を知った父親が「はらわたが煮えくり返る思いだ」と声を震わせた。

 在職していた道路建設課によると、假谷さんは06年4月から同課に勤務し、主にバイパス道の建設や道路の拡幅工事など県道の改良事業に取り組んでいた。今春、水島港湾事務所への異動が決まっており、25日も引き継ぎ書類の作成や残務整理に追われていた。午後10時ごろ「お疲れ様です」と同僚にあいさつし、退庁したという。

 同課には26日午前0時過ぎに「岡山駅で事故に巻き込まれた」との一報が入り、職員3人が病院に駆けつけた。西本靖・同課改良班長は「病院でも状況が分からなかった。今はショックのほうが大きい」と話した。

 假谷さんら異動対象者を送り出そうと26日に送別会を行う予定だった。同僚の一人は「熱心で前向きな性格だった。まさか、という思いだ」と唇をかみしめた。假谷さんの机には前日まで使っていたという、パソコンが1台だけ残っていた。

 倉敷の假谷さん宅では、父親の要さん(70)が「本当ならたたき殺してやりたいくらいに、はらわたが煮えくり返っている」と語った後、「しかし、日本は法治国家なので罪を償い、早く更生して世の中に役立つようになってほしい」と唇をかみしめていた。

 ◇問題行動なく--逮捕の少年

 学校関係者によると、少年は大阪府北部の府立高校を今春卒業したばかり。おとなしくまじめな性格で、放送部に所属し、高校3年間で欠席はわずか2日しかなく、高校から「精勤賞」をもらっていた。

 日ごろから問題行動はなく、2月29日に行われた卒業式に出席した際も特に変わったところはなかったという。成績もよく、大学への進学を希望していた。しかし、家庭の経済的な理由で断念し、「自分で仕事を探してお金をためてから、大学に進学したい」と前向きに話していたという。

 また、少年が卒業した大阪府大東市の市立中学校の校長によると、少年は中学1年の時に4~5人にいじめられたことがあり、保護者同士で解決したという。

 少年の自宅の近所の人は、「朝10時ごろ、両親が泣きながら『岡山に行く』と出て行った。おとなしい子だったのに」と話していた。

 自宅の近所の住民によると、少年は小さいころから切れやすく、けんかをしたりすると、すぐに「殺してやる」などと叫んでいたという。

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 ◆「茨城の事件影響か」識者に聞く

 茨城県土浦市の8人殺傷事件に続いて起きた無差別殺人。背景や連鎖を防ぐため、識者に方策を聞いた。

 ◇気持ち探るの難しい--藤本哲也・中央大教授(犯罪学)の話

 少年が刃物を用意していた点から、茨城県の事件に影響された可能性が高いが、「誰でもよいから人を殺したかった」などという容疑者の気持ちを探るのは難しい。従来の犯罪学ではとらえきれない事件が多い。インターネットや携帯電話メールの普及などによる人間関係の希薄化が影響しているのではないか。

 最も基本的な生活習慣の、家庭や地域などで目と目を合わせたコミュニケーションを復活させるしかない。

 ◇背景に深い孤独--教育、少年問題に詳しい尾木直樹法政大教授(臨床教育学)の話

 茨城県の事件に続き、青少年の自暴自棄的な、自殺願望型の事件といえるのではないか。

 背景には深い孤独があるように思う。国際的な調査でも日本の青少年が孤独感を募らせている傾向が明確に出ている。格差を背景に「負けたら終わり」という空気が社会を支配し、家庭も地域も孤独な若者を支えきれなくなった。家庭や地域を支える複数のセーフティーネットが必要だ。

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 ◇少年による主な殺人事件◇(年齢は当時)

97年   神戸市須磨区で中学3年の少年(14)が近所の小学生

 2~5月 5人を殺傷。犯行声明文を地元新聞社に送りつけた

00年5月 佐賀市の無職少年(17)が高速バスを乗っ取り、高速道路を広島方面に走らせて、車内で乗客3人を殺傷

04年6月 長崎県佐世保市の市立小で小学6年の女児(11)が同級生女児(12)を殺害

05年2月 大阪府寝屋川市の市立小で、卒業生の少年(17)が教職員3人を殺傷

08年1月 青森県八戸市のアパートで、無職の少年(18)が母、弟、妹の家族3人を刺殺し、自宅アパートに放火

毎日新聞 2008年3月26日 西部夕刊

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