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実況見聞

【実況見聞】

割り箸はもったいない?

2007年06月30日

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吉野杉の高級割り箸「らんちゅう」を持つ田中淳夫さん。「このうちの一方は、端材を中国に運んで加工したものです」=生駒市内で

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竹製の自慢のマイ箸と箸入れを持つ寺山喜博さん=高松市で

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吉野杉の割り箸の見本。木目が美しい

  ◆割り切れない割り箸の話

 外出する時に自分の箸(はし)(マイ箸)を持ち歩き、割り箸を使わないようにしようという運動がある。「ほとんどが中国産で、現地の森林破壊につながる」「使い捨てはもったいない」というのだが、記者が勤務する吉野地方は割り箸の主産地。「じゃ、国内業者のことをどう思っているのか」という疑問が沸く。折しも生駒市在住の森林ジャーナリスト田中淳夫さん(48)が『割り箸はもったいない?』(ちくま新書)を刊行した。国産割り箸は、背板と呼ばれる端材を使うのに、「『もったいない』とは何だ」と怒っているのだ。

   ◎マイ箸は免罪符か

 国内で消費する年間約260億膳(ぜん)の割り箸のうち、輸入が99%を占め、ほとんどが中国産。中国では天然林を皆伐し、1本の木をまるごと割り箸に加工するので森林破壊につながる・・。これがマイ箸運動の根拠だ。

 田中さんは、まず、中国では、植林が盛んに行われており、割り箸の森林破壊への影響も「微々たるもの」と主張。運動を「産地の人のことを考えず、割り箸を使わなければ環境に対する免罪符を得た気分になっている」と批判する。

 が、最も言いたいのは「割り箸こそ日本林業の神髄」という点。日本の人工林は、間伐することで森林の荒廃を防ぎ、残った木々の二酸化炭素の吸収を盛んにして地球温暖化防止に役立っているというのだ。

 実際、吉野地方では植林後、間伐を繰り返しながら100年かけて高級材「吉野杉」が採れる木を育てるが、これだけでは採算がとれない。間伐材を足場丸太用に、端材を割り箸用に売るなどして、育林費用をまかなってきた。特に割り箸作りは、過疎に悩む山村を支えてきた重要な産業でもある。

 マイ箸運動家がこうした点を理解しているかというと、いささかおぼつかない気がする。記者自身、他府県の環境団体の催しで「マイ箸を持参して」と求められたことがある。主催者に事情を説明して「国産割り箸を持っていきたいが」と聞くと、「よくわからない」と言って逃げられてしまった。

   ◎「国産」を否定せず

 マイ箸運動家は、国産割り箸についてどう考えているのだろうか。インターネットで検索した大阪、香川、北海道の4団体に聞くと、国産割り箸を否定するところは一つもなかった。

 大阪市の「地球村」は「ターゲットは外食産業やコンビニの割り箸。でも、国産の割り箸を使おうと訴えるより、『マイ箸を持とう』の方がわかりやすい」と明かした。同市の「マイ箸クラブ」は「大量消費・廃棄のライフスタイルを変え、森林の大切さに気づくことが大切。一方、割り箸は日本文化が育んだもの。ふだんはマイ箸、祝い事に割り箸というふうに状況に合わせるべきです」と言う。

 これに対し、「むしろ国産割り箸を応援するため」と言うのは、札幌市の「ブレインネットワーク&MY‐HASHIプロジェクト」。「マイ箸が増えて割り箸の需要が減れば、中国産が薄利多売できなくなる。大量生産できずにコストが上昇し、国産割り箸が価格面で対抗できる」というわけだ。

 吉野町の吉野製箸(せいはし)工業協同組合の組合員は約40業者。最盛時の80年代と比べ3分の1に減った。「外食チェーン以外の飲食店も中国産を使うようになってきた影響が大きい」という。

 最近、中国政府は森林資源の枯渇を心配して割り箸の価格を05年末に30%値上げし、「08年から輸出禁止」という動きも見せている。国産割り箸に「追い風」が吹くかのように見えるが、同組合の上垣公俊理事長(70)は「外食産業やコンビニが大量に使う割り箸をすべて国産に替えるのは無理」と話す。

 「割り箸の増産のために木を切るとなれば、それこそ環境破壊。住宅建築が輸入材から国産材中心に替わった上でならわかるが……」

   ◎箸から地球考える

 「(マイ箸運動を)環境問題にするから重くなる。持つと格好良い、ファッションと考えればいいんですよ」と提言するのは、高松市の書道家寺山喜博さん(28)。2年前、中国・内モンゴルの植林に参加したのをきっかけに、「二本!?マイ箸協会」を立ち上げた。

 寺山さんのマイ箸は、手先が器用な父親の手作り。ケースを振ると仕込み杖(づえ)のように箸先が飛び出す仕掛けだ。同協会が「侍箸」と名付けて1膳4800円で売っている。「日本の箸生産業者も一度しか使えない割り箸だけでなく、漆器などもっと長く使える端材の利用法を考えるべきでは」とも言う。割り箸にこだわり過ぎれば時代の変化に取り残される危険がある、との意見は傾聴に値する。

 でも、とりあえず素材のままの木を手にした方が、環境問題を考える時のイメージがわきやすいのではないか。今年3月の京都大の卒業式では、尾池和夫総長が卒業生全員に長さ50センチの吉野産の杉箸を贈った。「地球環境について考えてみて」と問題提起したのだ。

 それならば・・。吉野杉の割り箸は安いもので1膳約5円。柾目(まさめ)の木目が美しい。国内産業を応援しながら、環境に配慮する。記者はこれを「マイ割り箸」にして持ち歩こうと思う。

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