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【めざましカフェ】漫画家・さかもと未明 勤勉さが世界を席巻
先日、アメリカで出版した本のサイン会でロスに行ってきました。びっくりしたのは、日本の漫画家に対する評価の高さ、日本文化への関心の高さです。リトルトーキョーの紀伊国屋という場所柄もあったかもしれませんが、驚くほどたくさんのアメリカ人が日本語で話しかけてくれ、英語力を心配する必要はほとんどありませんでした。
日本のよさを外国の人が評価してくれるのは、うれしさ半分、反省半分です。日本人が外国にいで行くときの武器は実は流暢(りゅうちょう)な英語でもアメリカ人のようなフランクさでもなくて、自国の文化に精通していることなのに、日本人はそれに気づいていないですから。
また、「これから世界に打って出る武器は漫画だよ! 漫画! コンテンツだよ!!」と勢いだけでいわれるのも閉口です。別に漫画だけが日本の唯一の武器だとも思いませんし、残念に思うのは、どう漫画を使っていいかも、何が漫画なのかもわかっていないのに、漫画で商売させてくださいよ、といわれることです。しかも漫画はもうかると思っている。そういう方には「多分がっかりされるから手を出さないほうがいいですよ」と申し上げます。
だって漫画って、信じられないくらいもうからない商売なんですよ。1ページにあれだけの絵をいれますから、とにかく時間がかかる。その時間に世間で当然の対価を払っていたら出版社も漫画家も経営が破綻(はたん)しますから、私たちの業界の人たちはみな、驚くくらい劣悪な条件で働くのが当たり前です。公務員の方が先日サービス残業うんぬんとおっしゃっていましたが、私たちは生活全部がサービス残業。当然、普通には暮らせません。富をなすのは一部の人で、ほとんどの漫画家はアパート住まいで一生を終えます。結婚する余裕のない場合も多い。それでも私たちは何度も編集者とやりとりをし、日の目をみない原稿を山ほどかき、命を削って原稿をかくわけです。
その、全く非合理的な勤勉さ、ものづくりへの執念が日本の漫画やアニメをして、欧米を席巻させたのではないでしょうか。それは、昭和のお父さんたちが身を粉にして働いた結果、日本製品が世界に評価されたのと同じだと思っています。だから、ただ単に絵とお話のついたものなら何でも売れるわけじゃない。これだけたくさんの漫画人口をもつような、すなわち恐ろしく勤勉な作業のできる日本人の精神文化が込められたとき、メード・イン・ジャパンは武器になったのだと思うわけです。それが最近では漫画の世界で開花したということなのでしょう。
私はたまたま漫画がかけましたが、漫画がかけなくても、一生懸命に日本人としての武器を磨ければ、誰もが世界に通用すると思います。世界一の勤勉な国民であることが武器だという、その「売り」を忘れずにいましょう。
そういう意味では、私は最近の投資ブームを屁(へ)だと思っています。ちょっとパソコンをいじっただけで億を稼いだという人が、額に汗してお米や車を作る人より偉いわけないじゃないですか。最近は景気の悪い話ばかりですが、これだけ日本人は外国の人から評価が高いのですから!! ぜひ心に芯を入れなおして、また世界に奇跡の日本を見せていこうじゃありませんか。