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2008年03月26日(水曜日)付

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道路財源修正―両党首に決断を求める

 ガソリンの暫定税率を含む租税特別措置(租特)の期限切れまであと1週間を切ったというのに、与野党の話し合いがいっこうに始まらない。

 与野党がぶつかっているのは、いくつもある租特のうち道路特定財源の問題だけだ。しかし、このままつっぱりあいが続けば、土地売買の登記や国際的な金融取引など、すべての租特が3月末で期限切れになってしまう。影響はガソリン値下げにとどまらないのだ。

 そうなれば、国民の暮らしや企業の活動が混乱するのは間違いない。迷惑を被るのは国民にほかならない。

 ここまでこじれてしまった事態をどう解きほぐすか。衆院第1党の自民党、参院第1党の民主党は、打開する責任をともに負っている。両党首はいまこそ、譲歩に踏み出す勇気を示すべきだ。政治への国民の信頼をつなぎとめるためには、それしかない。

 福田首相が譲るべきは、政府の租税特措法案から「道路」関係を外した民主党の対案を受け入れることだ。

 道路財源を除く租特については、民主党も賛成する方針だ。すぐにも成立させられるではないか。

 それができないのはなぜか。与党の対応に問題がある。民主党の対案が参院で可決されれば政府案の否決とみなし、政府案を衆院の3分の2ですぐに再可決するとの構えをちらつかせているからだ。

 あまりにも常識からはずれた拡大解釈だ。憲法の規定からそこまで読み込むのは無理がある。

 首相みずから「みなし否決」による再可決はしないと約束する。あるいは衆参両院の議長を交えて与野党で確認する手もあろう。そのうえで、まずはすみやかに民主党の対案を成立させるのだ。

 そうした方向が定まれば、こんどは小沢民主党代表が譲る番だ。

 まず首相が呼びかけた「道路」についての与野党修正協議のテーブルにつく。趣旨説明さえ行われていない租税特措法案の参院審議にただちに応じることも当然だ。その際、「年度内に結論を出す」とした衆参両院議長のあっせんに立ち返ることは言うまでもない。

 日銀総裁のポストが野党の反対で空席になった翌日、首相はメールマガジンで「唯一正道を歩まん」という浜口雄幸元首相の言葉を引いた。戦前、軍部に屈せず軍縮を主張した浜口氏に、民主党と無原則な妥協はしないというみずからの決意を重ねたようにも読める。

 だが、道路財源では多くの無駄遣いや利権が浮かび上がった。これを正すことこそが「正道」ではないのか。対野党のメンツや自民党道路族への配慮にこだわらず、果敢な決断を求めたい。

 朝日新聞の世論調査では、ほぼ6割が一般財源化に賛成し、政府の法案に反対している。首相は国民の声に率直に耳を傾け、法案修正に向けてもう一度、民主党に踏み込んだ提案をすべきだ。

NHK委員長―国の宣伝機関にするのか

 NHKは報道機関だ。国の宣伝機関ではない。

 私たちが社説でこのように書いたのは一昨年のことだ。当時の菅総務相がNHKの短波ラジオ国際放送で拉致問題を重点的に扱うよう命じることを検討したいと表明したからである。

 同じことを当のNHKの経営委員長に言わなければならないとは、なんとも情けない。

 古森重隆委員長が経営委員会で、海外向けの国際放送では「利害が対立する問題については当然、日本の国益を主張すべきだ」と述べた。

 その後、古森氏は会見で「政府見解や国会決議などを伝える必要がある。国際ビジネスをやってきた経験から、NHKも日本の主張をはっきり放送しなければならないと思う」と語った。

 公共放送であるNHKは、国民から集める受信料で運営される。国家権力からの独立を保障し、さまざま情報を多角的に伝えるための仕組みである。ここが政府の宣伝機関とは決定的に異なる。

 このことは海外向けの放送でも同じだろう。日本の政府の主張だけを色濃く反映していたとしたら、だれがその報道を信じるだろうか。日本とは利害が反する国の主張も公正に伝えてこそ、その放送は権威あるものと認められる。

 国際放送の長い歴史を持つ英国放送協会(BBC)が高い評価を受けているのは、自国に不利なことでも公正に伝えようと努力してきたからだ。

 経営委員会では、NHK副会長が「NHKの国際放送では日本の立場を直接主張することはない」と反論した。委員長代行も「日本政府の立場だけ出すのでは国営放送になってしまう」と述べた。

 いずれもメディアや公共放送のあるべき姿を踏まえての発言である。古森氏の発言がいかに報道機関のあり方からはずれているかを示している。

 もうひとつ古森氏の発言で気になるのは、「国益」という言葉の使い方だ。

 私たちも日本の国益は大切だと思う。しかし、何が日本の国民にとっての利益になるかは、幅広い論議と慎重な吟味が必要だ。政府と異なる考えが国益にかなうこともある。

 政府の見解を放送すれば国益にかなうと古森氏が考えているとしたら、あまりに短絡的だといわざるをえない。

 古森氏はこれまでも経営委員会で「選挙期間中の放送については、歴史ものなど微妙な政治的問題に結びつく可能性もあるため、いつも以上にご注意願いたい」と、番組への政治的な介入ととられかねない発言をしている。

 国会に予算承認権を握られているNHKは、政治との距離が絶えず問題となってきた。国際放送とはいえ、国の宣伝機関になるような言い方をすれば、公共放送としての役割はどうなるのか。NHKの経営トップとして適任なのか、ますます疑わざるをえない。

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