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2008年3月26日

 能登半島地震があらためて教えてくれた美しい日本語がある。復興に励む被災者の口から「これも、あたわり」という言葉をこの一年、何度聞かされたことだろう

手元の小さな辞書を引いても載っていないが、宿命、世の定めという意味だろう。そういえば、周囲の年配者も時折使う。金はあたわりもん、と強欲を戒める人がいる。一日一日があたわり、と病気と闘う人もいる

地震は理不尽な災害である。なぜ私がこんな目に遭うのか、という問いに、だれもこたえることはできない。この一年、復興半ばで被災者六十人以上が亡くなったし、今も仮設住宅で五百七十九人が暮らす。世の定め、と言うにはあまりに過酷な日々である

それでも、被災を「あたわり」と言う人がいる。阪神大震災や中越地震の被災地にも駆けつけて心のケアに当たった僧侶から、「能登の人は強い」と聞かされたことがある。被災者の心を、心棒のように貫く「あたわり」である

地震という不幸な出来事を通じて知らされた美しい言葉だが、いまの世からは駆け足で消えようとしている。能登から復興したい「あたわり」という生きる力である。


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