時空間のねじれ   

                 

オリジナルでは空港で別れた二人。別れたものの、すぐに再会した。
ミョンジャが自殺し、ヨンスが病気になった。
でもこんな物語の展開も面白そうと創作してみた。さて・・・  

 

異聞・1  異聞2

 

 

別れ・空路                                         

 

僕達は誰にも行き先を告げずに空港を発った。

妹を連れ新しい仕事を探さなければならない。
学生時代の伝を頼りに僕はアメリカへ向かった。
直前まで妹にはパリに行くと言っていた。
誰にも知られずに生きていくために妹まで欺いての旅立ちだった。

あの人は行ってしまった。
行き先は聞かなかったわ、聞いたところでどうにもならないのですもの。

私のアルバイト時代の口座にまとまったお金が振り込まれていた。
程なく届いた手紙。
振り込まれたのは家庭教師としての報酬であること、成功報酬だからそのまま受け取ること、などが事務的にタイプされていた。
一切の感情を書き込むことなく、最後にあの人の肉筆がサインされていた。
ソウルからの期日指定便だった。

一切の手がかりを消してあの人はいなくなった。
私は大学に復学し、かねてよりの留学の手続きを取る。
先生はパリとニューヨークのどちらかと言った。

私は「パリで絵を学ぶの」と言って目を輝かせたミンジの顔を思い出し、即座にアメリカに行きます、と答えていた。
別れたのだもの、なるべく遠くに行ってしまおう。

先生には行き先を誰にも教えないで欲しいと、懇願した。
家族のいない身、一人で絵に集中したいと、そう言って。
友人達にも告げずにひとり、空港を発った。


心機一転

 

アメリカでの再出発。

学生時代の友人とは言え、ただチャンスを貰っただけだった。
成功も失敗も全て自分の責任。
夢中で働いた一年だった。
辛い時脳裏に浮かぶ恋人の頃のキム・ヨンス。
「これからは頑張りません、好きにならないように頑張るのは、もう辞めます。」
そう告白した愛しい人。
そうだ、僕も頑張るのは辞めよう。
忘れよう、諦めようと思うのは、もう止めた。

教授の勧めでコンクールに出品した絵。
思いがけず佳作になり、それが突破口になった。
アジアの若く美しい画家の絵は称賛され売れ始めた。

再会

 

ミンチョルはその画家の噂を聞いていた。
どこか懐かしく郷愁を誘う絵を描く、東洋人。
名前は「YURIKA」、本名も国籍も年齢も一切明かさず、活動している。
顔も公には出していない、神秘の女性。

一度逢いたいと思った。
ミンチョルはアメリカで活動している同胞を発掘しプロデュースする仕事をしていた。
アジア人という情報以外何の手がかりも無かったが、絵を描く女性、と言うだけで感じるものがあった。
家に居た頃、ミンジの部屋で絵を描いていた懐かしく愛しい女。
どこかで繋がっているような、淡い夢のような期待を持って、YURIKAを探し始めていた。

そしてその邂逅は思いがけず早くやってきた。

ある財界人の誕生パーティ、そこに肖像を描いたYURIKAが招待されていること。
その画家がパーティ会場に現れたとき、僕は心の中で叫んでいた。
「キム・ヨンス!」

彼女はゆっくり僕の方に近づき、そうして笑顔で言った。
「お久しぶりです、室長。」
儀礼的に挨拶する彼女は、僕との別れに泣いた面影は微塵もなかった。

2へ

Asa Nakagawara

CHIMERA mRNAへ 

  憧れ

  別館・ヤン・ミミその後生還正装