カイロ(AP) 世界的な食品価格上昇のあおりを受けて、エジプトで貧困層向けの低価格パンが品薄になり、大行列ができて死者まで出る事態となっている。大統領は政治的危機を回避するため、軍に対しパンの供給を増やすよう命じた。
エジプトの主食は丸型の平たいパン。政府は貧困対策として10年ほど前からこのパンのため補助金を出すようになり、補助金パンが1枚1円以下で売られている。しかし小麦などの価格上昇に伴って補助金を受けていないパンが値上げされたため、ここ数カ月で徐々に需要が高まっていた。
補助金パンの供給は減る一方。過去数週間で急激に品薄が進み、貧困地域では何時間も行列しないと買えなくなったところもある。行列に並ぶ人たちの間ではけんかが絶えず、警察によるとこれまでに少なくとも7人が死亡した。このうち2人は並んだ人同士のけんかで刺殺され、残る5人は並んでいる間の暑さや疲れが原因だという。
喫茶店で働く17歳の男性は、自分と同僚のために20枚のパンを買うため毎日4時間並んでいる。補助金なしのパンは値段が10〜12倍になるため手が出せないといい、「生活は本当に惨めになった」と肩を落とす。補助金を受けているパン店が、小麦の一部を闇市場に横流ししていると見る人も多い。
世界銀行によると、エジプトの人口7600万人のうち20%以上が貧困層。世界の食品価格上昇が貧困層を直撃している実態が、今回のパン騒動に示された形だ。
こうした事態について野党などは、ムバラク大統領の失策だと批判。大統領は先週、軍に対し、補助金パンの製造と供給を増やすよう命令した。
エジプトでは軍および警察を管轄する内務省が、隊員や警察官にパンを供給するための専属ベーカリーを持っている。軍は過去数日でカイロにパン店を10店開き、販売スタンドを500カ所設置した。
さらに大統領は、外貨準備金を使って小麦を買い増すよう命じたという。軍に介入を指示した大統領命令について、国営アハラム紙は「危機に対処するため非常事態を宣言したに等しい」と報じている。