2008年03月24日

続々々・岡田斗司夫の「遺言」第四章

 前回、前々回、前々々回の続きです。これで最後だ!

<二面性、或いは21世紀型物語について>
○ 西崎義展はプロデューサーとして超一流だったのだろう。例えば、「ガンダム」は「ザンボット3」→「ダイターン3」→「ガンダム」というように、サンライズのロボットアニメが順当に進化していった結果生まれたものだ。しかし「ヤマト」はそれまで不毛の荒野だったところに突然変異的に現れた。あんな地味な色の宇宙船間を主題としたアニメをTV放送にのせてしまった西崎義展のプロデュース力は凄い。その頃の西崎さんとは話をしてみたかったが、自分が会った時はそうではなかった。
○ 結局、西崎さんとは人間対人間の話が成立しなかった。西崎さんのことが怖かったし、好きになれなかった。
○ そこいら辺が富野さんと違う所だ。僕は富野さんが大好きだ。
○ じゃ、宮崎駿はどうか?少なくとも、向こうは僕のことを嫌っているに違いない。いや、違うな。鈴木敏夫が僕のことを嫌ってるんだ。嫌いな理由も分かるぞ。似てるからだ!
○ オレが強くて悪ければ鈴木敏夫になる。「良い」というのは「弱い」ということ。じゃ、ここでいう「強さ」とか「悪さ」とは何かというと、こういうのをしっかり話していくのが「遺言」イベントなので、説明したい。
○ ドストエフスキー以前の文学、19世紀型の文学は人間のあるべき姿を描こうというものだった(教養小説とかビルドゥングスロマンとかのことですね)。
○ 一方、19世紀末〜20世紀の主流となった文学は、そのアンチテーゼであった。
○ 20世紀は民主主義の世紀である。国民主流。政治の悪は突き詰めれば国民に責任がある。王様や貴族の責任にできない。国民が1億人いるとして、国の責任の1億分の1は自分にあり、誰もそれ以上の責任を持てないというところが民主主義の限界。
○ 20世紀も半ばになると、民主主義というシステムが完成し、弱者を押しつぶす構造が出来上がった。そんな中、弱い人間がシステムに押し潰されるさま、或いは組み込まれないようあがくさま等を描いていこうとしたのが20世紀文学である。
○ その為には「システムの中で押し潰される人間を描く自由」が必要だった。勢い、その内容や表現は反体制的だったり非人道的だったりするものとなり、時に性的で暴力的で残酷的なものとなる。「ロリコン規制反対!」とか「表現の自由」を訴える人達の背景には、こういった歴史的文脈がある。例えば筒井康隆は、「どれだけ社会が健康的になろうとも、おれだけは不健康なことを書く」という意のことを言っている。
○ しかし、21世紀はその表現自体がシステムを壊すのではないか。民主主義というディズニーランドを壊してしまうのではないか。21世紀的な倫理とか道徳とか、「あるべき姿」をもうちょっと描かなくてはいけないのではいか。
○ だから僕は鈴木敏夫みたいに「悪く」、「強く」なれない。糸井重里みたいに割り切れない。
○ ただ、鈴木敏夫の「悪さ」にも理由がある。鈴木敏夫は他人の為に「悪」を引き受けている。「悪い」鈴木敏夫と、「良い」宮崎駿がタッグを組むことでジブリというアニメスタジオは成り立っている。
○ 富野さんや西崎義展の不幸はそこにある。パートナーの不在という理由から、「マッチョ」と「おネェ」の二面性を持つ必要があったのだろう。
○ 本人が色んなところで言っているが、宮崎駿は本心ではビデオやDVDを売りたくないらしい。子供はTVなど観ず、ゲームなどやらず、野原で遊びまわるのが正しい姿だと考えている。しかし、それでは宮崎駿の「アニメ製作者」という面が成り立たない。そこで鈴木敏夫が「宮崎さん、コレDVDにして世界中の子供に観せようよ!」「金曜ロードショーで何回も何回もかけようよ!」「ジブリでディズニー越えようよ!」と提案することで、悪を、二面性の片方を引き受けているわけだ。
○ アニメだけに限らない。あらゆるビジネスはこの両面で成り立っている。あらゆるビジネスには二面性がある。「客」と「商売」、両方を考える必要がある。
○ ジブリだけではない。「エヴァ」や「ひぐらし」は、結果としてこの世界の何かを犠牲にすることにより、「唯一性」とか「格好よさ」が成り立っている。
○ 尾崎豊の歌詞で、「盗んだバイクで走りだす」や「夜の校舎 窓ガラス壊して回った」というのがあるが、もうこの世界のバイクは全て盗まれているし、ガラスは全て割られているんだよ!……ということを昔言ったら、殴られたことがある(笑)。

 ここいら辺りで時間も遅くなり、あとは次回の予告というか落ち葉拾い的な話ということで、ガイナックス没作品の簡単な解説になりました。
<蒼きウル>
○ 山賀くんの仮想的はずっと宮崎駿だった。「蒼きウル」は「紅の豚」への対抗心があって出した企画だった。「紅」と「蒼」、「豚」と「狼(ウル)」がそれぞれ対応している。
○ 山賀くんなりの「格好良いとはこういうことさ」がやりたかったらしい。宮崎駿にとっての格好よさとは「紅の豚」であるが、俺達にとっての格好良さ、それも極限までの格好よさとは何か?それは「ストリート・オブ・ファイヤー」しかない!(笑)
○ 「ストリート・オブ・ファイヤー」のスタッフは最低だ。マイケル・パレはアル中だし、ダイアン・レインは歌を吹き返させるズベ公、監督のウォルター・ヒルは馬鹿。でも、映画は本当に格好良い。おまけに人が一人も死なない。「ストリート・オブ・ファイヤー」で「紅の豚」をやる、という企画が「蒼きウル」の実相。
紅の豚
森山周一郎 岡村明美 加藤登紀子
B00005R5J6

ストリート・オブ・ファイヤー (ユニバーサル・セレクション第6弾) 【初回生産限定】
マイケル・パレ.ダイアン・レイン.リック・モラニス.エイミー・マディカン. ウォルター・ヒル
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<グリーンナチス>
○ これは樋口真嗣くんが立てた企画。敵として「地球環境を守る為に人間を滅ぼす」という、地球に優しい悪の組織が出てくる。環境に優しいクリーンなロボがビルを破壊し、その跡にスギを植林する。その頃は今みたいに花粉症が社会問題になっていなかったので、スギの植林にエコロジーなイメージを屈託なく当てはめられた。
○ どう考えても主人公の大義が見つからない、という理由で企画がポシャった。
○ しかし、今なら企画を実現できるかもしれない。「エコロジー」とは、つまり環境中心の概念だ。それと対立するものは、人間中心の概念である「ヒューマニズム」だ。「ヒューマニズム」という思想においては、人間一人の価値は地球より重くなる。地球環境より人間の方が大事になる
○ 現代ヒューマニズムの原典はフランス革命にある。これは神より人間の方が大事という考え方だ。ここでいう神は地球に通じる。そこで、エコロジーを象徴する緑のロボットと、ヒューマニズムを象徴するトリコロール・カラーのロボットが戦うバトルものにする。勿論、それぞれザク似のロボとガンダム似のロボだ!
○ ラストはどうしようか?「宇宙の果てに殖民可能な惑星が見つかりました!」で逃げるのが適当かもしれない。もしくは「我々の世代は馬鹿ばかりだったけれど、希望に満ち溢れた次の世代が解決してくれるであろう」の美文に逃げるのも良い。でもこれは危険な発想で、年金問題以上のツケを次世代に押し付けることになる。赤字のまま社長が引退するような。

<デスロボ>
○ 僕の考えた敵で、「デスロボ」というのがある。死者の魂が入っているロボットで「デスロボ」。死者たちは月に住んでいて、地球を羨ましく思っている。これは「最強の敵とは何か?」という発想から生まれたもの。
○ 何が最強かというと、味方が死ぬと敵の仲間になるところ。全く勝ち目が無く、戦っているうちに死者になるのも悪くないかな?なんて思うようになってくる。
○ 死者には魂がない。だから精神的に達観していて、欲望に翻弄されている生者をみて、良かれと思って殺していく。魂を救済しなくては!ポアしなければ!みたいに(笑)
○ 視聴者に、死んだほうが楽だと思わせるのはマズいので、企画は流れたのだが、本当にやらなくて良かった。オウムの事件があった時、うちのスタジオの誰かが参加してるんじゃないかと思ったもの!


 こんな感じで第四章は終了。今回は質疑応答も無かった。

 感想としては、一部繰り返しになるが、岡田斗司夫の眠田直や富野由悠季への愛を再確認、作品で感動させるテクニックはさして目新しい話ではないものの、実際ちゃんとやってる人は少ない、なんてところかな。
 「エコロジー」と「ヒューマニズム」は、本当は対立する概念じゃないと思うのだが、それについては先日の日記で書きました。

 あと、21世紀型の物語では道徳や倫理を真正面に訴えるべき云々という話は、将来的に書籍化を予定しているという、基本的には表現規制に賛成という話のことなんだろうと思う。そういや岡田斗司夫は以前日記で「バトルロワイアル」には暴力賛美が確かにあるので子供にみせてはいけないと書いていたな。

 岡田斗司夫のいう「21世紀型の物語」は、乙木一史のいう「ビルドゥングスロマンの現在」とはやはり似て非なるものなのだろうか?なんてことを思ったり。

 あとあと、表現規制については、やはりどうかと思う。21世紀型の物語が19世紀文学のアンチテーゼのままであってはいけないという考えには大いに同意するのだが、道徳や倫理といったメッセージの扱いや、表現はこうあるべき等の線引きは個々のクリエーターが矜持として持つべきものであって、法律で規制すべきものではないと思う。岡田は尾崎豊の歌詞を例に出していたが、なるほどこの世界のバイクは全て盗まれているし、ガラスは全て割られているが、それでも20世紀においても教養小説にそれなりの意味があったように、21世紀においても「バイクを盗んだ」とか「ガラスを割った」という話には、それなりの意味がある筈なんだよな。たとえ、その話を聞いて影響されてしまった人がバイクを盗んだりガラスを割ったりする以上のことをしたとしても。
 もっと言うなら、21世紀型の物語というのは、「バイクを盗んだ」とか「ガラスを割った」という話をしつつ、全体的な構成として倫理や道徳を訴えるものになるんじゃないかと思う。
 というか、岡田斗司夫のいう表現規制は、「21世紀型の物語はこうあるべき」という考えがあっての表現規制というより、表現規制があるべきだから21世紀型の物語こうなる、みたいな思考の結果という感じがするな。あくまでも感じだが。

 まぁ、しかし、人は誰でもそのような二面性を持っているものだと思う。岡田斗司夫の話の中では「突き詰めた表現」と「ビジネス上の暗部」が同じ「悪」として混同されている気がするけれど、それでも、そのどちらも、二面性の片方として必要だ。誰にでも、その人にとっての鈴木敏夫がいるわけではないし、その人にとっての宮崎駿に至ってはいわずもがな。一人で何役も演じることで、大きなものを無しとげられるわけだし、それは「21世紀の物語」においてもそうだと思う。
 「このイベントを面白い!と感じてブログにアップする自分と、ブログにアップするしかない自分という二面性、というとこまで書いて100点とした上で、どこまでやれるかやってみましょう!」なんて岡田斗司夫が言うものだから、こんな感想でまとめて今回は終了。私もこの二面性があるおかげで、オタ趣味に没頭する一方で、元気に会社で仕事できるというものだ。

 次回は4月14日にやる予定とのことだが、4月は予定が一杯なので、今から参加できるかどうか不安です。

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