東方Project二次創作 『紅魔館恋異変』 第7回
の続き。
東方Project二次創作
『紅魔館恋異変』
第8回
フランドール・スカーレット 姉のレミリアのことが好き。
レミリア・スカーレット 妹のフランから求められれば応えるが、本心では咲夜が好き。
十六夜咲夜(いざよい さくや) 主であるレミリアに、想いを寄せている。
妖精メイド 館の中のあらゆる雑務を担当している。大勢いる。
今朝からずっと降り続いている雨は一向にやむ気配はなく、雨足もだんだん強いものになってきていた。
吸血鬼レミリア・スカーレットを主とするこの紅魔館の中も、すっかり湿気が充満しきっていた。
フランドール・スカーレットの魂を宿した十六夜咲夜は、姉のレミリア・スカーレットに紅茶を淹れて持ってくるようにいわれた事を思い出し、自分の部屋である地下室を出て、最初に「十六夜咲夜」として目覚めたこの場所、厨房に戻ってきていた。
咲夜「はぁ、やっと着いた・・・」
厨房に着いた途端、咲夜は疲れのため、はぁと息をはき、ため息をついた。
咲夜「うー、疲れたよー。今の私ってさくやだから、空を飛んだりできないんだよね、人間って不便だなー」
咲夜はメイド服のスカートを翻しながら思わず手近にあった椅子にどっかと腰をおろし、しばしの休憩をとった。
咲夜「でもこれもお姉さまに好きでいてもらうため。これからは私がさくやなんだから、ちょっと疲れるぐらい我慢しなきゃね」
そう独り言をつぶやいて、咲夜は自分で自分に言い聞かせていた。
椅子に座っている咲夜はなんとはなしに自分の胸を見てみた。
咲夜が息を吸ったり吐いたりするのとぴったり合うように、ふたつの大きなふくらみも静かに上下運動を繰り返している。それを見ていた咲夜は思わず両手で自分の胸を、紺を基調としたメイド服の布ごしにぎゅっと掴んでみた。
咲夜の手のひらにやわらかい感触が伝わってくる。ちょっと力をこめると簡単につぶれるが、元に戻ろうとする力も強いのかぷるんとした弾力も手のひらに伝わってくる。こうしてぎゅっぎゅっと掴んでいるだけで気持ちがいい。
咲夜「やっぱりさくや、胸大きいな。お姉様も女だけど、やっぱり胸は大きいほうがいいのかな」
吸血鬼の一族であるレミリアとフランドールはほぼ不死に近い長寿をもっているが、その代償として、生まれたときから死ぬまでずっと幼い少女の姿のまま、という制約を課せられている。外的要因により多少の体型変化はあるかもしれないが、それでも人間のように年を経て成長して大人びた外見になる、ということはない。
そして十六夜咲夜は、容姿が美しいだけでなく、女性としてほぼ完璧に近いぐらいのプロポーションの持ち主だった。
そういうわけで、強く意識してきたわけでもないが、フランドールは出るところは出て、ひっこむところはひっこむ、という理想の体型を持つ咲夜を多少はうらやましく思っていた。
咲夜「でも、今は私がさくやなんだよね。この胸も・・・この身体の全部が私のものなんだよね」
咲夜はそう言って自分の胸から手を離し、今度は自分の両肩を包み込むようにして抱きしめる。
咲夜「お姉様・・・」
咲夜の中のフランの脳裏に、数時間前に偶然目撃した、咲夜が姉のレミリアを後ろから愛しそうに抱きしめていた光景が思い起こされる。
咲夜「お姉様・・・もう何回くらいああやってさくやに抱きしめてもらってたのかな。10回?20回?もっと前からかな。ひょっとしたら、抱きしめること以外のことをしていたのかも・・・」
フランドールの心の中に、再び熱い炎のような嫉妬の心が芽生えてくる。
咲夜は思わずその咲夜がレミリアを抱きしめていた光景を打ち消すかのように頭をぶんぶんと左右に振り、ぎゅっとこぶしを握り締めた。
咲夜「ううん、もうそんなの昔のことよ。さくやはもういない。これからは私がさくやなんだから。お姉様が好きな人は十六夜咲夜。その十六夜咲夜は私。これまでどおり、お姉様は私のことを好きでいてくれる・・・」
邪魔者はもういない。
そのことを再確認した咲夜は勝利を確信したとばかりに、思わず口の端を少しだけ吊り上げ、笑みを浮かべた。
咲夜「って、いけない!またお姉様に紅茶持っていくの忘れるところだった!」
姉のことを強く思っていた咲夜の中のフランは、その姉から紅茶を持ってくるよう頼まれていたことをまた思い出し、座っていた椅子が大きく揺れるほどの勢いですっくと立ち上がった。立ち上がった勢いで、もみあげ部分で三つ編みにした髪と、胸の2つのふくらみが大きく揺れた。
咲夜は厨房の壁にかかっている時計を見る。
時計の針が指している数字を読むと、廊下でレミリアから紅茶を頼まれたあの時から、けっこうな時間が経っているのが分かった。
広い紅魔館のほぼ中央にあるこの厨房と、館の最深部の突き当たりにあるフランドールの私室を兼ねた地下室の間を、徒歩で1回往復しているのだ。そこそこの時間が経過しているのは当然だ。
咲夜「うー、もうけっこう時間経っちゃってるよ・・・。あんまりお姉様を待たせるわけにもいかないし、早くしないと。でも・・・」
咲夜はまたここで新たな問題にぶつかっていた。
咲夜「私・・・紅茶の淹れ方分からない・・・」
フランドールはこの館の主の妹であり、「お嬢様」であるので、人になにかしてもらったことは数え切れないぐらいあるが、人になにかしてあげたことは1回もない。フランは「誰かになにかしてもらう」のが当然の立場なので、「紅茶を淹れる」という雑務の仕方など知っていようはずもない。
これが本物の十六夜咲夜なら、最高の味と温度の紅茶を普通になんでもないことのように淹れて差し出すだろう。主であるレミリアに仕えるようになって数年、レミリアからあらゆる面で絶大な信頼を得ている十六夜咲夜にとっては、美味しい紅茶を手早く出すということなど、「出来て当たり前」の行為なのである。
しかし、今の十六夜咲夜の中にいるのは、自分で飲むミルクですら自分で入れたことのないほどの生粋のお嬢様であるフランドールなのだ。紅茶を淹れるという、慣れた者にとっては簡単な作業でさえ、フランにとっては困難を極めることになるだろう。
咲夜「でも、今の私は咲夜なんだから・・・出来なきゃおかしいよね」
十六夜咲夜として生きていくと決めた次の瞬間からいきなり困難の壁にぶちあたって思わず暗い気持ちになりかける咲夜。
咲夜「でも・・・私やるわ!きっと、お姉様に美味しい紅茶を淹れてみせる!」
姉であるレミリアへの愛なら誰にも負けない!とばかりに、暗い気持ちを吹き飛ばし、決意の意思を瞳にみなぎらせてぐっと拳を握り締めている咲夜の姿があった。
咲夜「でも、わかんないものはわかんないよ~。そもそも、紅茶ってどうやって淹れるの~?」
先ほどの咲夜の燃えたぎるような決意も、早くももろく崩れ去ろうとしていた。困り果てた咲夜は、思わず頭を抱えてしまう。
とにかく、紅茶を淹れようにも方法が分からない。
とりあえず咲夜は厨房内を歩き回り、紅茶を淹れるのに必要そうなものを台の上に出してみることにした。
咲夜の他に誰もいない広い厨房の中で、ガチャガチャと物が積み上がっていく音が響き渡る。
そこへ、次の仕事のために移動中だった妖精メイドのひとりが、たまたま厨房の前を通りかかった。
厨房はドアがなく常に開放しているため、外からでも容易に中の様子が分かる。
ちなみに、十六夜咲夜の役職は「メイド長」である。「メイド長」というぐらいだから、ただの「メイド」も当然のことながら居る。この紅魔館で働いているメイドは咲夜以外は全員妖精で、主に掃除・洗濯・食事の用意など、雑務を担当している。妖精メイドは妖精だけあって、全員、昆虫の羽根のような半透明の羽を背中に持っている。服装は咲夜のメイド服とほとんど変わらない、オーソドックスなデザインのメイド服である。あと、当然のごとく、妖精メイドたちは全員女である。
妖精「あれ?メイド長、なにやってるんですか?」
咲夜「あれでもない、これでもない・・・」
厨房の前をたまたま通りかかった妖精メイドは厨房の外、通路から中にいる咲夜に声をかけてみたが、当の咲夜はなにやら作業に集中していて、妖精メイドの声は届いていない。
妖精「なにやってるんだろ・・・片付け?整頓?」
見ると、咲夜は棚という棚から、中にあるものを手当たり次第に取り出しては台の上に置き、積み上げ、また棚から物を取り出しては積み上げる、ということを繰り返している。
妖精「でも厨房の一斉片付けは一昨日やったはずだけど・・・メイド長、メイド長ーーーーっ!なにやってるんですか?手が必要なようなら、手伝いますよー!?」
妖精は声を大きくして中の咲夜に呼びかけてみた。
咲夜「これも違う・・・かな。でも必要かもしれないし・・・とりあえず置いておこうっと」
・・・やはり、妖精メイドの声は咲夜に届いていなかった。
妖精「いつもはどんな騒音の中でも呼べば答えてくれるのに・・・どうしたんだろう?」
呼びかけても無駄だと悟った妖精メイドは、実力行使に出ることにした。
妖精メイドは背中の羽をパタパタを羽ばたかせながら、物であふれかえっている台の間をすり抜け、咲夜の背後まで近づいた。
妖精「メイド長、メイド長ーーーーっっ!!」
妖精メイドは咲夜の背後でさらに大声で呼びかけてみた。
咲夜「紅茶ってオレンジか赤い色をしてるから・・・そういうものを探せばいいのかな」
ここまでしても、咲夜はまだ妖精メイドの呼びかけに気づかなかった。それだけ作業に集中していたのである。
妖精「もう、どうしちゃったの、今日のメイド長は。こうなったら・・・」
妖精メイドは最後の手段に出た。
妖精「メイド長ーーーーーーーーーーっっっっ!!!!」
妖精メイドは大声を出しつつ、咲夜の両肩を掴み、ぐるりと力まかせに咲夜の身体を反転させ、無理矢理こちらに向けさせた。
咲夜「わ、わぁっっっっっ!!び、びっくりした!!」
不意をつかれ、相当驚いたのか、咲夜は大口を開けて叫んだ。
妖精「わぁっ、びっくりしたのはこっちですよ。そんなに驚くなんて、メイド長らしくない・・・」
咲夜「あ、め、メイド?なんだ・・・。なんなの、いったい」
妖精「そりゃ、私はメイドですよ。なんなの、っていうのは私が聞きたいぐらいです。どうしたんですか、メイド長。厨房の物をこんなに出してきて。整理するなら手伝いますが、もっと人数が必要なようでしたら、他に手が空いてるメイドを呼んできますよ」
咲夜「・・・ん、なに、メイド長って。誰のこと?」
妖精「・・・えっと、メイド長、それは冗談なのですか?ここは私、笑うところなんですか?」
妖精メイドは眉をひそませ、相当困惑した表情をしてみせた。
咲夜「・・・・・・・ああそっか、今の私はさくやなんだった」
咲夜は左の手のひらを右の拳でポンと叩き、ようやく合点がいった、という風な表情を浮かべ、あらためて目の前の妖精メイドを見た。
咲夜(今の私はさくやで、さくやってメイド達のリーダーだったんだよね。いけないいけない、ついつい、自分がさくやだってこと忘れちゃう)
妖精「もう、どうしちゃったんですか、メイド長。疲れているんじゃないですか?仕事があるなら私が代わりますから、メイド長は少し休まれたほうがいいんじゃないですか?」
妖精メイドは、先ほどから咲夜の様子がおかしいのは連日ほとんど休みなしで仕事をしていて疲れがたまっているせいだと思い、上司である咲夜に少し休息をとってみては、と提案した。
咲夜「わ、私は・・・大丈夫よ!ちょっとこれは・・・お姉様・・・じゃない、お、お嬢様から頼まれた仕事で、私ひとりでやらなきゃいけないので・・・」
妖精「そうですか?でも、なにをするのか知りませんけど、けっこうすごい量みたいじゃないですか。やっぱり私、手伝いますよ」
咲夜「い、いいってば!」
迂闊に一緒に居られると、自分の中身がフランドールだってことがバレてしまうと考えたフランは、なんとかこの妖精メイドに出て行ってもらおうとしたが、そのとき、ある考えが閃いた。
咲夜(あ、そうだ、この妖精メイドに紅茶の淹れ方教えてもらえばいいんじゃ・・・!)
続く。
後書き。
この話、今まで全く外見描写をしていませんでした。
二次創作なので、原作を知っている方は外見描写がなくてもどんな姿か分かると勝手に思っていたのですが、当然ながら原作知らない方だとどんな姿なのか全く分からないですし(汗)。
というわけで多分に今更ですが、今回の話(第8話)から多少なりとも外見描写を入れていたりします。