医療の質と効率どう両立
公明新聞:2008年3月25日
ナショナルセンター独法化の視点
担うべき役割論議を
現在ある国立高度専門医療センター(いわゆるナショナルセンター)を、2010年度に非公務員型の独立行政法人に移行させる法案が今国会に提出されている。
独立行政法人への移行は、簡素で効率的な政府を実現させる行政改革の趣旨に沿うものだが、一方でナショナルセンターは、医療の“最後の砦”とも言える重要な機能を担っている。医療の進歩、質の確保と効率化をどう両立させていくか。先行して独立行政法人化した国立病院機構では、個々の病院の経営黒字化を急ぐあまりに不採算な診療科を閉鎖したり、勤務する医師の“稼ぎ”を比較した一覧を作成して競わせる病院なども現れた。国立病院機構の病院も含めて、国民の財産とも言える病院の在り方について、効率化だけでなく担うべき役割を踏まえた十分な検討が必要になる。
独立行政法人化するナショナルセンターは、現在の国立がんセンター、国立循環器病センター、国立精神・神経センター、国立国際医療センター、国立成育医療センター、国立長寿医療センターの六つ。日本において患者数、死亡数、医療費のいずれでも大きな位置を占めるがんや脳卒中、心臓病など、その取り組みが国民的な課題である政策医療分野の疾患の病態解明や先進的な医療の開発・研究・普及、医師の研修などに取り組んでいる。6センターは、それぞれが個別の独立行政法人になる。
独法化後の6センターについて、厚生労働省は「診療は黒字に、研究は運営費補助金で」と説明するが、先進的な医療や試行的な取り組みを行う施設として、そうした割り切った区分けが可能なのかについては疑問が残る。
例えば国の小児医療の中心施設である成育医療センターは、もともと不採算な医療分野を担うことに加え、他では行っていない試行的な医療(例えば時間をかけた診療、コメディカルの関与など)を、診療報酬の観点だけで評価できるのか検討されるべきだろう。良質で試行的な医療を提供すればするほど赤字になるのでは、小児医療の発展に寄与する取り組みは、逆に委縮していくことになる。
また、こうした中核となる施設の役割には、臨床研究を基盤に医療の進歩に貢献する「エビデンス」(医学的根拠)の構築・発信がある。ところが臨床研究を担うべき医師は、診療に追われ臨床研究の時間が確保できていない実態もある。医師個々の“稼ぎ”にとらわれない、十分な臨床研究を行うことが可能な体制がなければ、そもそも国の中心施設である必要がなくなってしまう。
現在の小児科医不足、専門医育成の必要性を踏まえれば、良質な医師を育成する研修体制の充実、計画的な研修医の増員、国内外からの短期・長期の指導医の招聘、交流を充実する必要もある。医師の研修機能を独法会計とは別立てにし国の予算を確保するくらいの取り組みが必要ではないか。
医師配置など柔軟に
なにより重要なのは、課題に取り組む個々の法人のミッション(使命)を明確にすることだろう。国の中心施設として必要な戦略、政策、重点化の検討、短期・中期・長期にわたって求められる小児医療の課題(社会的ニーズが高い発達障害、アレルギー疾患など)について幅広い検討も必要になる。社会の変化と国民的なニーズにこたえる診療科の在り方、医師配置などが、医局任せで実現するとも思えない。
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