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潮流:不信解く思いやりの心=中国総局長・堀信一郎

 胡錦濤国家主席の5月の訪日に向けて、中国指導部が、要所要所で日本への配慮を見せている。もちろん、中国製ギョーザ事件による「日中不信の構図」を解きほぐそうという狙いがある。中国得意のしたたかな戦略だと突き放すのは簡単だが、ここでは相手を知るという意味で中国側の空気を伝えておきたい。

 例えば、15日に北京で開かれた「日中青少年友好交流年」の開幕式だ。北京では全国人民代表大会(全人代)が開催中で、通常、全人代の期間中は海外からの要人を受け入れない。共産党トップが、全人代以外の行事に出席することはない。だが、胡錦濤主席は「新日中友好21世紀委員会」の小林陽太郎座長らと会談し、「日中の戦略的互恵関係をさらに完全なものにしたい」と述べた。

 共産党関係者によると、もともと、この行事は温家宝首相が対応する予定だったが、16日に首相再任の選挙が控えており、どうしても出席できなくなった。このため、15日午前に国家主席に再任されたばかりの胡氏自らが、午後からの青少年行事に参加するという「格上げ」の対応をし、日本側を喜ばせた。

 胡主席は84年に日本からの青少年訪中団3000人の受け入れを担当した経験があり、「友好は青少年から」という信念がある。胡主席は今回も日本の青少年訪中代表団ら約1000人と会い、将来を託した。

 若者が隣国の文化に触れるのは貴重な経験になる。それでなくても、若者の「海外旅行離れ」を大人たちが憂う時代である。中国側の受け入れを担当した共産党幹部によると「食の安全に敏感になっている時期なので神経を使った。日本の青少年たちが中国に来て、おなかを壊したら大変だ。辛い料理は刺激が強いので、食べさせるなと指示した」と打ち明けた。本来なら、激辛の四川マーボー豆腐で「熱烈歓迎」したいところだろうが、「日本に合わせた」という。

 ギョーザ事件は真相が解明されていないが、中国公安省の幹部によると、捜査協力過程で日本の警察当局にメンツをつぶされたという。日本側も中国公安省への信頼が揺らいでいると聞く。今後も協力して捜査を進めるという点では日中両国は一致しており、決定的な対立は避けられると思う。ただ、胡主席訪日の準備を進める外務省にとっても「ギョーザ事件をきっかけに日中間の雰囲気を悪くしたのは日本ではない。中国だ」というのがホンネであり、救いようがない。こんな時は、相手を思いやり、誤解を一つ一つ解いていくしかない。

毎日新聞 2008年3月25日 東京朝刊

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