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2008年03月25日(火曜日)付

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8人殺傷事件―なぜ防げなかったのか

 この悲惨で異様な事件を未然に防ぐことはできなかったのか。警察の捜査と対応に手抜かりがあったのではないか。そんな思いがどうしてもぬぐえない。

 日曜日の白昼、茨城県土浦市のJR駅で、刃物を手にした24歳の男が高校生や会社員ら8人に切りかかり、1人が命を落とした。

 男は逮捕後の取り調べに対し、「誰でもよかった。人を殺してみたかった」と述べた。さらに驚いたことに、「自分が卒業した小学校を襲うつもりだった」とも話したという。もし実行されていたらと思うと、背筋が寒くなる。

 男はわずか4日前に同じ市内で見ず知らずの男性を刺殺したとして、指名手配されていた。警察は170人の態勢を組み、この日も駅には始発から8人の私服警官を張りつけていた。

 だが、警戒を強める目の前で、男は再び事件を起こした。「もっと捜査を徹底していれば」。惨劇に巻き込まれた被害者や家族のやりきれない思いは察するにあまりある。

 最初の殺人事件のあと、警察は犯人が電車で移動していると考え、沿線の駅や立ち寄りそうなインターネットカフェなどに幅広く警察官を配置していた。

 だが、警察がそれほど警戒していたことが、地域の人たちにどこまで伝わっていたのか。指名手配された男は「早く捕まえてごらん」と、自分の携帯電話から110番に通報していた。警察を挑発するような態度であり、次の事件を起こす危険性は十分に考えられたはずだ。

 しかし、警察は電話があったことを公表しなかった。「危険な男が逃げている」と呼びかけていれば、地元や鉄道沿線の人はもっと警戒しただろう。

 もしかしたら、犯人についての情報が寄せられたかもしれない。警察の力だけでなく、地域の目をもっと生かした犯人逮捕の道もありえたのではないか。

 もう一つの疑問は、第2の事件の当日も駅にいたのは私服警官だけで、制服警察官を置かなかったことだ。犯人の逮捕を優先し、捜査の動きをできるだけ悟られないようにしたのだろうが、新たな犯罪の抑止という点では結果として失敗だったと言わざるをえない。

 さらに、警察官が8人もいたにもかかわらず、次々と人を刺した男を取り逃がしてしまった。第3の事件を起こす恐れのある男をみすみす街の中へ放してしまったことになる。男が自ら交番へ出向いたため逮捕できたが、現場で見失ったのは明らかな失態である。

 現場の警察官の動きや連絡態勢は適切だったのか。2年前のものとはいえ、男の写真を持っていながら、なぜだれも見つけることができなかったのか。

 こうした点も合わせて、捜査の方針や情報提供の仕方のどこに問題があったのか、茨城県警にはしっかり検証してもらいたい。今回の事件からくむべき教訓はたくさんあるはずだ。

新銀行東京―与党は知事の言いなりか

 都議会は、納税者にどう申し開きするつもりなのだろうか。

 経営難の新銀行東京に都が400億円を追加出資するという件が、都議会で可決される公算が大きくなっている。過半数を握る与党の自民、公明両党が賛成する方向だからだ。

 週末にかけて朝日新聞が都民に聞いた世論調査では、追加出資への反対は7割を超えた。石原知事の責任を指摘する声は9割に及ぶ。この猛烈な逆風に抗して賛成しようというのに、都議会の与党から満足な説明は聞かれない。

 新銀行は04年、石原氏の2期目の選挙公約で設立された。都が1千億円を出資してスタートしたのに、ずさんな融資を繰り返した結果、開業からわずか3年で累積赤字が1千億円に達し、破綻(は・たん)寸前になってしまった。

 なぜ、こんなことになったのか。都民としては責任ある説明を聞きたいし、追加出資もみすみすドブに捨てることにならないか、心配に思うのは当然だ。使われるのは都民の税金である。

 ところが、新銀行の内部調査ではすべての責任が元経営トップらにあるとされたのに、都議会はその人物を呼んで真偽を確かめることさえしなかった。

 追加の400億円を投入すれば、本当に再建できるのか。この点でも具体的な根拠が示されたとは言い難い。これで都民に納得しろというのは、とても無理な話だろう。

 都議会は、直接選挙で選ばれる知事の行政に対し、監視する義務と責任がある。知事の与党であっても、都民に託されたこのチェック機能を果たさねばならないのだ。

 にもかかわらず、自民議員からは知事におもねるような発言が相次いだ。与党だからかばおうという気持ちなのだろうが、度を超していないか。

 公明党は、個々の議員や支持基盤のなかに追加出資を疑問視する声が少なくなかった。それがどうして容認へと流れたのか、不可解な印象はぬぐえない。

 私たちは、被害を最小限に抑えるには新銀行を清算するしかないと考える。どうしても存続させたいというなら、金融庁の検査を入れ、不良債権の規模を確定させたうえで再建への具体的なめどを示すのが先決ではないのか。

 石原氏の責任もあいまいにしていいはずがない。悪いのは元経営トップであって「私が社長ならもっと大きな銀行にしていますよ」と知事は語る。では、その人物を据えた責任者はだれなのか。

 特に指摘したいのは、昨年の知事選で新銀行がこんな状態になっているのを有権者にきちんと伝えなかったことだ。当時は正確な情報を把握していなかったと釈明しているが、選挙後になって巨額の累積赤字を公表し、追加出資がなければ破綻するというのでは、都民への背信ではないのか。

 与党にいま一度、熟慮を求める。

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