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2006-08-20 『青幻記 遠い日の母は美しく』

[] 『青幻記 遠い日の母は美しく』

初めて観た時にとても印象に残った映画です。 『秋津温泉』『儀式』『戦場のメリークリスマス』等の名撮影監督である 成島東一郎が人生をかけて自ら監督した魂の映像詩と呼べる映画です。 土曜日NHK BS2の『シネマの扉』で森本レオも若い時に観てその映像美に感動したと言っていましたが、成島東一郎監督自身『ワンカットも疎かにしたところはない』と云っています。 この映画については、前に私のブログで 「『青幻記・遠い日の母は美しく』と山田風太郎」(id:tougyou:20050914#p1)で書いているのですが、著者の一色次郎のことは現在では余り知られていないかもしれません。

一色次郎の人生は、この原作モデルである自分自身と母との悲しい死別と、もう一つ影を落としているのは、この古里の島での暴力事件に係わったとして、彼が幼い時に、父が無実の罪で獄死したことであると思われます。 後年、彼が死刑廃止運動にも一生懸命であったのは、父の無実を晴らせなかった無念から来ているだとも思われます。  彼が書いた本に『太陽と鎖』という題名の小説がありますが、これは獄死した父の事件のことを書いた作品なのではないかと思います。 母や父のことを別にすると、戦時中東京に住んでいる時に、太平洋戦争での東京大空襲を目撃したことから、『日本空襲記』(文和書房1972))を著すと共に、『東京大空襲・戦災誌』を共同編集して菊池寛賞を受賞していますが、無差別殺人である東京大空襲をどうしても書き編集せずにはいられなかったのでしょう。 

ところで、この映画脚本には、NHK時代劇、『御宿かわせみ』で知られている女流作家平岩弓枝も参加しています。

衛星映画劇場 青幻記 遠い日の母は美しく 1973年 8月21日(月) 後8:00〜後9:59

太宰治賞を受賞した一色次郎の自伝的同名小説を、吉田喜重や大島渚の撮影監督を務めた名カメラマン成島東一郎が監督デビュー作として映画化。奄美諸島の沖永良部島を舞台に、主人公が若くして死んだ美しい母との思い出をたどる。今年5月16日に死去した名優・田村高廣が主役を好演し、感動を呼ぶ。大自然をとらえた映像美は圧巻。
                  〔製作〕加藤辰次
                  〔製作・監督・脚本・撮影〕成島東一郎
                  〔原作〕一色次郎
                  〔脚本〕平岩弓枝、伊藤昌輝
                  〔音楽〕武満徹
                  〔出演〕田村高廣、賀来敦子、藤原釜足、山岡久乃、戸浦六宏 ほか
                  (1973年)〔カラー〕

放映後:

今回、観直して思ったことは、映像の美しさに優るとも劣らないのが武満徹の抒情ある素晴らしい音楽でした。母の役の賀来敦子が更に上手な演技であればと思っている映画評を書かれている人もブログで見かけましたが、彼女はやはり見事な熱演であったと思いますし、この映画と『儀式』、『白と黒』という三作にしか出演していないことを思うと、この映画の「母」の役を演じる為に、俳優であったと言えるかもしれません。 この映画大島渚監督の『儀式』の後の2年後に撮影されていますので、きっと成島東一郎は『儀式』を南の島のどこかで撮影監督をしていた時に、次は自分がこの映画を必ず撮ることと、「母」は賀来敦子にと思っていたのかもしれません。

(参考)

1973年度のキネマ旬報ベストテン
日本映画

1.津軽じょんがら節  (斎藤耕一)
2.仁義なき戦い (深作欣二)
3.青幻記 遠い日の母は美しく(成島東一郎)
4.股旅  (市川崑)
5.恍惚の人  (豊田四郎)
6.四畳半襖の裏張り  (神代辰巳)
7.戒厳令 (吉田喜重)
8.仁義なき戦い 代理戦争  (深作欣二)
9.男はつらいよ 寅次郎忘れな草 (山田洋次)
10.戦争と人間 完結編  (山本薩夫)
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