『死ぬまで純愛』 鹿住 槙 日本文芸社 2008年……若さゆえの青く一途な思い――鹿住 槙のベスト。

■『死ぬまで純愛』 鹿住 槙
ISBN:4537141174 挿絵:津寺里可子 日本文芸社 2008/03 ¥630
笑っちまうよなぁ… 俺が、お前、抱いてるなんてさ――
湖で事故にあった高校生の認は、目覚めると女の子になっていた。密かに憧れていた親友、高志の彼女・楡崎にだ。しかも元に戻る方法はないという――。そんな事情を知っても、高志は親友として接してくれていた…はずだったのに。ある日突然、「お前は俺の彼女なんだぜ」と、強引に唇を奪われ処女喪失させられてしまう!?混乱した認は高志を避けるようになるが、ある時、自分の体がまだ生きていて、その事実を高志が隠していたことを知ってしまい!?恋と友情のはざまで揺れる学園センチメンタルラブついに登場!
とりあえず画像を先に。
感想はまたのちほど…。
【夢見月の新人】:『暁月のテロリスト』 波奈海月 白泉社 2008年……力の入った愛すべきトンデモ

■『暁月のテロリスト』 波奈海月
ISBN:4592875524 挿絵:高階 祐 白泉社 2008/03/19 ¥560
志嶋伊月は、アジアサミットを狙ったと思われる無差別爆弾テロで記憶を失ってしまう。公安警部の矢敷隆直は、伊月をテロリストから保護するため自宅へ引き取る。実は伊月と矢敷は、かつて恋人同士だった。矢敷に守られ、記憶がないとはいえ甘い日々を過ごす伊月だが「アイ」と名乗る謎の男が接近してきて…!?記憶は取り戻せるのか?テロリストの正体は!?衝撃のハードサスペンスロマン!
小説を書き始めてから十数年(途中ブランクあり)、白泉社「花丸新人賞」に投稿し続け、三年前に賞を受賞されたという波奈海月さんの単行本デビュー作。
「花丸」は、公式サイトこそ見所がない…とゆーか、やる気なさそうなコンテンツばかりで、アクセスするたびに萎えてしまうのだが、「BL小説の書き方」なるHOW TO本を出し、「新人賞」を設け、「1.上位作品は必ず雑誌掲載あるいは刊行、2.全作品の批評コメントを雑誌に掲載、3.新鮮度優先の『特別賞』つき」としているので、投稿しても書評は送らないと明言しているところよりは、新人発掘・育成に(実を結んでいるかどうかは別として)力を入れている姿勢を対外的にうかがわせるので、レーベルに対する印象は悪くない。この賞で育った作家は、たたき上げで力をつけてきた人が多そう、でもやっぱり「花郎藤子の『黒羽と鵙目』」、残念ながらクロモズ以外は良く知らないレーベルである。
ごめんちゃい。!以下、ネタバレ注意報!タイトルには「テロリスト」の文字、さらに絵師は、朝日ソノラマ系とゆーか、流麗だけどちょっとレトロ感のあるベタ画風なためか、ビックリ設定の作品によく振られる高階佑さん(『デッドなんちゃらシリーズ』『青鯉』『上海恋戯』『水底の月』)、よって想像はついていた(実際そういう期待もしていた)のだが、やはり力の入ったビックリ設定な作品だった。
事故に巻き込まれて記憶喪失となった伊月は、退院後、高校の同級生で現在は刑事の矢敷と一緒に暮らし始める。だが、平穏はひとときだけ、次第に伊月のまわりでゴタゴタが起こり出す。いったい自分は何者であり、どうして事故に巻き込まれたのか、そもそもなぜあの場所にいたのか――という記憶喪失モノにして、警察やらヤクザやら、そして秘密結社なテロ組織まで絡んだ、「そうだったのかー!…ってか、突然そんなこと云い出すなんてアナター!…ってか、そういうアナタがそーだったんですかー!?」、壮大さはシベリア超特急並み、二重三重どんでん返しフィーバーなストーリー。
山田たまきさんの『ゴールデン・アワーズ・ショウ』で、「文章が常にクレッシェンドで行間やゆとりを与えられず、ブレスなしでてつらい」と書いたが、波奈さんの場合、エピソードがクレッシェンドであれもこれもと詰め込み過ぎ、その結果、BLで重要であるラブシーンの部分が、付け足しのようになってしまっている。もともと最初から「できちゃっているふたり」なので、ラブの告白を最大の盛り上がりに持っていけないから、余計につらい。ラブシーンを削り、どんでん返しを減らし、エピソードを厳選してスッキリさせれば、ごく一般のライトノベルとして通用しそうな感じがする。
ペンやティッシュやガイジンなど、わかりやす〜い伏線を張っていて、それをちゃんと回収してるのはいい。ただ、サスペンス系だから盛り上げようと、さらに「実はこうでした」という事実をキャラに突然語らせるので、読んでいて面食らってしまう。まさに「ちょっと待ってよ、いつそんなことになってたの?」である。矢敷がそんな取引をしていただなんて、DOLLが組織としてもうひとつの顔を持っていた、今度は警察に協力だなんて、そんなバカな!ハッピーエンドに持って行きたいのはよくわかる、でもあまりにご都合主義でしょう?ただ、伊月が爆弾をダウンさせるシーンは緊迫感があり、とても良かった。褒めたい。それだけに、どんでん返しが続いてく後半がもったいなかったかな…。また、メイド喫茶などが特異時代性のあるものが出てくるので、何年後かに読み直すと、かなり古く感じてしまうだろう。
謎だの過去だのテロだの警察だのラブだの…要素があまりに多すぎて、まとめること自体がむずかしい内容を、よく1冊にしたもんだと褒めたいのだが、やっぱりストーリーが破綻してしまっていて残念、3冊くらい分けて出せればよかったね、という印象である。それがダメなら、こういうラストシーンはどうだろう?…事件が決着し、記憶を取り戻した伊月は、住む世界が違う人間になってまった矢敷と別れるしかなく、彼のもとを去ってしまう。諦めきれない矢敷は、DOLL関連の捜査チームに入り、伊月を探す日々を送る。そしてある日、矢敷は伊月に似た男を街で見かける(再会)――で、ピリオド。好評ならば続きが書けるのだし、これならピリオドをカンマにすることができるんじゃ?…違う?
評価:★★★(パワーがある。一生懸命書いてるなあという印象。頑張って欲しい)
しっかし…記憶喪失になった男が、「実は昔、俺とお前は付き合っていたんだ。いまでも愛している」と男に告白されたら、やっぱ「えー!?俺ってホモだったのかー!?」と、大ショックを受けないかフツー?…いや、もともとがフツーの設定な話じゃないのだから、いいのか別に。そっかそっか。
絵師の高階さんは、「どうして変わった設定の話ばかり依頼がくるの?」と思っておられるかもしれないが、フツーの絵師だったら確実に一笑を買うだろう199ページの挿絵は、まさに高階さんの真骨頂、「これはスゴイ!さすが高階さんだ!」と、笑うどころかまじまじと見てしまった。その高階さん、本作でタッチがちょっと変わった。黒ベタがつややかに、そして描線は強くなったような気がする。高階さんは女性キャラを麗しく描く方なんだけども、今回はナシ。残念。いや、ホント女性キャラが綺麗なの。なので、BLよりファンタジー系のライトノベルの挿絵のほうが、実は合ってるかもしれない。
タイトルが「暁月のテロリスト」、さらに主人公の名前が「伊月」ときて、作者の名前も波奈「海月」。月ばかり…というより、キャラに自分と似たような名前が付けられるなんて、スゴイなあ。その波奈さん、この話を書く前はリーマンものや学園ものばかりだったそうで、個人的にはそっちのほうが気になる(想像がつかないから)。どんな話だったんだろう?
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
お知らせ&ひとこと
■『誘惑』の感想を書き上げました。
こちら→
http://diarynote.jp/d/25683/20080310.html(真剣に書いたので、何度も追記・修正してしまいました)
■『それを食べてはいけません。』の感想で、「静一郎の手袋に萌える」と書きましたが、なんで私ってば手袋が気になるんだろう?と自分を振り返ってみたところ、小学生の頃、CXで放送されていたアニメ「パタリロ」のバンコランのせいだと気付きました。あんな内容のアニメをよく放送できたもんだ、昔は平和(?)だったなあと、いまになってつくづく思います。じゃあ、靴にはなんで萌えるんだろう…?あれ?
■弥生の新人さんの作品は、週末に取り上げる予定です。本を買ったのが今日。まだ読んでませーん。
■アンドリュー・マッカーシーが離婚したそうです。
■ジュード・ロウがマジでヤバくなってきました。
↓「『スルース』…死に至るまで殴り合う男と男の見苦しさを楽しんで」(シネマトゥディ)
http://cinematoday.jp/page/A0001695(額の辺りがちょっと苦しいというかキューピーちゃんというか…一瞬、誰かと…)
お知らせ
コメントスパムに泣かされていましたが、様子見でコメント書き込み可能にしてみます。
そしたらまたスパムが来たので停止です。
…トホホ。
なんとかして欲しいです…。
■『それは食べてはいけません。』 の感想を書き上げました。
こちら→
http://diarynote.jp/d/25683/20080309.html(直幸見てたら、『厄介』のハリーを思い出しちゃったんです)
オススメの作品には
@RECOMMEND@マークを付けました。
新人さんの作品の場合は緑色でーす。
■yukipediaさんより「クレーム入れてもいいでのは?」とアドバイスを頂いたので、「プライムお試し会員になって注文した本に傷がついていました。1冊の注文だからといったって、あんまりです!」と密林にメールしたところ、「交換します」と返事が来ました。とりあえず受付してくれるようです。
yukipediaさーん!
アドバイス、ありがとうございましたー!
■柏枝先生の新刊が、マジで幻冬舎の新レーベル(ライトノベル系)から出るそうです(先生の日記より)。そっか幻冬舎か…幻冬舎ね…幻冬舎…うわ、久しぶりに言霊飛んじゃったよ…。ちなみに、WHでのハリーのお話はその次だそうです。
【如月の新人 2】:『誘惑』 藤代葎 大洋図書 2008年……「いかにもSHY」な作風と筆致、そしてストーリー

■『誘惑』(SHY NOVELS (202)) 藤代 葎
ISBN:4813011705 挿絵:奈良千春 大洋図書 2008/02/28 ¥903
怜悧な美貌と冷静な頭脳の持ち主である咲坂諒一は、警護員として依頼人・柳瀬芳成を担当することに。男の色気と自信を漂わせ、なにかと自分を挑発してくる柳瀬に苛立つ咲坂だが、ある夜、柳瀬の第一秘書が何者かに襲われて…。
SHY NOVELS(以下「SHY」)という人気レーベルを持つ大洋図書は、賞を設置していない。よって新人の作品は、1.編集部が作家をどこからかスカウト、2.随時原稿募集でその中から採用…という経過を経て、本が出るのだと思われる(たぶん)。
BLはライトノベルの中でも、読み手の好みの細分化に合わせ、「××は△△系に強い」など、レーベルによってその傾向が顕著に表れるジャンルなのだが、秋林お気に入りのSHYの場合、学園ムネきゅん♪系からヤンキーにーちゃんオラオラ鬼畜系まで、比較的厚めのリキッド(…)マットなカバー力を持ち、どちらかというと、ドラマチックでエンタ色が強めなレーベルである(たぶん)。
ラインナップ作家が、人気と実力が伴う榎田尤利や英田サキなため、「1冊で読ませる」構成力のある作品が多く、奈良千春や北畠あけ乃、山田ユギや石原理と、挿絵も人気スター絵師で固め、そして装丁は当然のようにどれもが麗しい。人気作家をさらなるスターダムに押し上げてきただけでなく、個性ある新人を発掘してくれるレーベルでもあり、たとえばここ数年なら、橘紅緒・松田美優・九葉暦と、BL既成作家にまーったく似てない/影響を受けていない作家を見つけているので(好き嫌いはまた別次元の話)、SHYに対する私の信頼係数たるや、ひっじょーに高いものとなっている。
…とここまで書くと、ハズレのない素晴らしいレーベルのように思われるが、そうと限らないのが厳しい現実である。SHYがここまでキメてくるせいで、ハズすと他レーベル以上にガツンと痛い返り討ちに遭う。ひとことで云うなら
「SHYでこれかよ!?」もしくは
「絵師や装丁はいいのに」。作家に対し、なんとも非情かつ失礼な話であるが、私はSHYを必ず「903円」キッカリ出して買うので、云う権利がある!…どうかお許しを。
…という「SHYの傾向とレーベル印象」を踏まえた上で、以下、感想。
!以下、ネタバレ注意報!いわゆる「ボディガードもの」。依頼人であるイケメン社長のSPとなった主人公が、いつの間にやらその社長に気に入られ、いつの間にやら自身もマルタイ(警備対象者)が気になり始め、いつの間にやらふたりは恋に落ちていた――というのが大まかなストーリーライン。依頼人が定番ハンキーな攻キャラなゆえ、そいつがゲイで、ノンケのボディガード(受)にお手つきするというストーリーなんだろうなと思っていたら、社長・柳瀬(攻)ではなく、ボディガードの主人公・咲坂(受)のほうがゲイだった。ナルホド、そうきたか。
がしかし。タイトルは「誘惑」で「身を挺して守り抜く」ボディガードもの、さらに絵師は奈良画伯なので、純愛というより、まずはドラマチックな恋の駆け引きだろうと期待してみれば、ふたりの恋…いや、柳瀬がなぜ咲坂を手に入れたいと思い始めたのかが存外に弱く、またあっけなかった。男女問わず虜にしてしまうルックス上々な咲坂をちょっと連れまわしてるうちに、柳瀬は本気で恋してしまった?…後腐れのない遊びばかりしていた男が?
この手の話に、もっとも説得力を与えてくれる
「つり橋効果」なエピソードがないこと、それがまず致命的だろう。秘書を病院送りにしてどうする。車が突っ込んできた程度でどうする。ナイフをちょっと避けただけでどうする。柳瀬あるいは咲坂に、デッドオアアライブ、マジでギリギリの危険に遭遇させないと。犯人がショボいのは仕方がないとしよう。それでも主人公は、刑事でも探偵でもなくボディガードなんだから、スリリングにドラマチックにキメて欲しかった。
そして当て馬の不在というか不発というか…惜しいんだよなあ、篠尾の存在が。過去に咲坂となにやらあったらしいのに、匂わしてオワリだなんてそんなもったいない、咲坂を暖かい目でじゃなく、熱い眼差しで見つめないと!…咲坂を追い詰め、柳瀬をイラつかせるほどの存在であって欲しかった。老若男女・性嗜好問わない、咲坂がいかにスペシャルな存在であるか。そういうのが読みたいんじゃないの?…私たちは。
「咲坂はギャップに弱い」とト書きで簡単に説明するのも、もったいない。一文で説明するんじゃなく、それはエピソード中で語って欲しい。ラストのラブシーンもなあ…あんな風に終わるなんて、ちょっと垢抜けない。「誘惑」というタイトルも、必要以上に凡庸な印象を与えていると思う。理解のある上司、同僚――など、登場人物は数々出てくるんだけども、意外と相関がアッサリしていて、キャラが浮いてこないあたりも気になる。
藤代さんは本作でデビューの新人さん。いかにもSHY好みなスッキリと読みやすい文章で個人的に好感度は高いし、美しいペンネームだと感心するのだが、なんと云うかその…「私が藤代葎」という名刺代わりの1本になるはずが、内容・文章/文体ともに個性が感じられず、ハッキリ云ってしまえば、
「英田サキを意識した高岡ミズミ」という印象である。
読者をグイグイっと引っ張っていく、「これはイケる」と予感させる冒頭はとてもいい。BL作品にありがちの、「最初の数行でキャラのフルネーム判明」がないところもいい(これは思いっきり主観)。そっくりとは云わないが、全体的に英田兄貴っぽい文章で、話を進行させたいときに、「〜なのだ」の断定形がト書きで頻繁に出てくるあたりも似てる。ただし、冒頭でグイグイと読み手を引っ張っていく文章が長く続かず、とくに前半は咲坂のルックスの良さばかりがフィーチャーされ、もたつく。そして、キャラとストーリーに惹き付けられるものがほとんどないこと、それがとても残念である。
決してヘタではない。出来不出来や面白さは別として、デビュー作なのに読ませる文章力はついているのだから、あとは個性とストーリーテリングの問題。ここのところSHYは、個性的な新人が続いていたので、どうしても藤代さんが没個性的に思えてしまう。密林などのレビューでは、みんなキビシイことを書いているけど、落ち込まないで。辛口な感想になってはいても、私は斬り捨てないよ。期待をしているから。個人的に好感度の高い新人さんなので、「私が藤代葎」という名刺代わりの作品、本当に待ってます!
評価:★★★(SHY好みのエンタ系作品だが、盛り上がりに欠ける)
『誘惑』というタイトルが凡庸と書いたが、これがもし『悩殺ドキュン☆ぼでぃがーど』とかなんとかだったら、印象的でもSHYというより南原兼(「エクスカリバーの人」)になってしまう…か。
BL小説の場合、最初からすんごい上手い作家なんて、一握りどころか一摘みだと思ってるので、作家に対する評価や好みは、2作目以降で確定かな。それにしても…いいなあ、デビュー作の挿絵を奈良画伯に手がけてもらえる、だなんて。もし私がBL作家になって(ありえない)、デビュー作の挿絵は奈良画伯だと告げられたら、その時点で自宅ベランダに躍り出て、ひとりラインダンスだな!…と、オッシーに云ったらば「見物しに行きますので、必ず踊って下さい」だって。……。
だから、ありえんっつーの!ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
【如月の新人 1】:『それは食べてはいけません。』 小石川あお 幻冬舎 2008年……秋林イチオシ!弱虫吸血鬼モノ。 (4)

■『それは食べてはいけません。』 小石川あお
ISBN:434481228X 幻冬舎コミックス 2008/02 ¥620
フツーの大学生・恒の同居人である直幸は、優しくて弱虫な吸血鬼。 棺桶は狭くて怖いと怯える、臆病な吸血鬼は恒を怖がらせないように「お食事」も我慢するけれど――!?直幸の兄・幸人と、狼男・静一郎の番外編描き下ろし!!表題シリーズの他、デビュー作を含む読み切り4本も収録
2006年、雑誌「ルチル」にてデビューした(たぶん)小石川あおさんの初コミックス。表題作である吸血鬼モノのほか、描き下ろし含め計8作品収録。
読み手の好みが細分化しすぎているBLゆえ、「ルチル」をまったくチェックしていなかった秋林、本屋さんでこの本を見たときは、表紙の白っぽいカラー絵に「もしかして麗人『ジョカトーレの人』?」と、心底ビビってしまい(だって!だって!だってー!<根性ナシ)、しばし手に取ることができなかった。30cmほど距離をおいて眺めながら、ペンネームが違う、「ジョカトーレの人」より繊細な絵柄だと気付き、別人と見極め、購入。
もともと私は吸血鬼モノが好きで、毎年大晦日に必ず映画「ロストボーイ」のDVDを観ては、ジョエル・シューマカー監督の「映画にはよくヴァンパイアが出てくるが、それはモンスターの中で、ヴァンパイアがもっともセクシーだからだ!」というコメンタリーに深く頷きながら新年を迎えるのだが、どうやらここ最近のBL界における吸血鬼は、木原音瀬『吸血鬼と愉快な仲間たち』など、セクシーというよりちょっとヘタレがブームらしい。
!以下、ネタバレ注意報!空腹で倒れたところを助けてくれた命の恩人がなんと吸血鬼、うわ!ヤバイ!と最初は身構えた恒だったが、故あって一緒に暮らしてみると、吸血鬼であるはずの直幸は、棺桶は暗くてイヤだと云うわ、ゴキブリがニガテで逃げるわ、自分の牙で自分の唇を切ってしまうわ、オバケが怖いと震えるわ、ヘタレというよりスーパーヘナチョコ、でもたいへん心根が優しい青年だった。そして仲良く暮らすうち、いつしかお互いかけがえのない存在となっていく――という、ちょっと可愛くてホロリとさせるヴァンパイア・コメディ。エロは少なめ…どころかほとんどない。
だから「ジョカトーレの人」じゃないと思う。キャラはガイジンっぽいルックスだし、洋館に住んでいる吸血鬼という設定なので、漠然と洋モノかなと思っていたら、出てくるキャラは(吸血鬼や狼男を含め)みな純和風の名前を持ち、舞台も思いっきりニッポンだった。でもどこかしら洋風な雰囲気を漂わせている不思議さと、昨今の流行りのガサつきはありながらも、スタイリッシュ過ぎないその描線が、個人的に好感度大である。こんな私好みの新人さんを見つけてくれるなんて、やってくれたよ、本当にありがとう!>ルチル(幻冬舎)
キャラの背景と相関をハッキリさせないまま、やや強引なモノローグを絡めてストーリーを進行させていくというのは、たぶん高河ゆんあたりが「それもアリ」とBL…いやマンガ界に浸透させたと思うのだが、読み手をギモンでイライラさせずに、「どういう背景と関係を持っているのかしら?いや〜ん♪気になっちゃう〜♪」と思わせ、その雰囲気で酔わせてしまう作家は特別だと思う。「どこをナイショにしてどこまで描くか」という、さじ加減ひとつで決まってしまうセンスは、マンガ家だろう小説家だろうと、すべての作家が持ち合わせているわけではないから。
持っていないから「センスがない、面白くない」というのではなく、「1.持っていなくても(あるいは持っていても関係なく)、たいへん面白い作品を何作も描ける人、2.持ってるけど、あからさまだったり独りよがりだったりすることが多い(=さじ加減がイマイチ)人、3.絶妙な感覚で持っている人」がいるということで、私は3の人が好み、BL系ならば小石川さんは3に当たる。
たとえば寿たらこもそうかな。広い洋館に、直幸はなぜたったひとりで住んでいるのか。どうして早寝早起きなのか。その理由を知ったとき、せつなくなってしまった。実は淋しい吸血鬼、だけどいまはひとりじゃない――せつない背景だからこそ、直幸→恒がよくわかるというか。そして独特の間で繰り出される、ほのぼのとした「笑い」。その絶妙さときたら!なんて素晴らしい!
「日向ぼっこでほのぼの」な縁側カップル・直幸×恒はツボじゃないのね、吸血鬼モノなんだから、もっとスリリングで色気がないと!という方には、「勝気なご主人(受)に従順な執事(攻)」な、幸人の話がツボだろう(もしかしたら、ソッチのほうが人気あるかもしれない)。秋林、実は静一郎(狼男な執事)×幸人(吸血鬼・直幸の兄)も好み。思いっきり大萌えしてしまった。ヤラレター。あからさまなエロがなくても色っぽ〜い♪きゃっほう♪…とくに、幸人が履くローファーのサイドからつま先までのカーブ、そして静一郎の手袋がたまらん!
…ヘンな萌え方をしないよーに!>秋林さん個人的には直幸一族が気になって仕方がない。おじーちゃん、パパ、にーちゃんたち、みなキャラ立ちしており、いい味も出していてたいへん面白い。続きを熱望しているのだが、これでオワリなのだろうか?…だとしたら、なんてもったいない!もっと描いてくれ!…いや、描かせてくれ!>ルチル
他の収録作は、正直云うとさほど心惹かれるものはなかったが、タッチがどんどん良くなっていく様が感じられた。絵の上手い人にはありがちの「きっとまた変わるんだろうな」という予感アリ、しかもその可能性大、である。
ここ数年、BLマンガで追っかける新人が出てこないと思っていた私の前に、すうっと現れてくれた期待の新星。長く輝いて欲しい――その星に願いを。
@RECOMMEND@評価:★★★★☆(期待を込めてプラス半星)
どちらかといえば、BLは小説のほうが面白い動向を見せていて、マンガのほうは「新装版は出るが、好みの新人が出てこない」状態だった。なので、やっと好みの新人さんが出てきたという感じ。ここ2年ほど、大洋図書ばかり注目していたからなあ、まさか幻冬舎から暁星が現れるなんて、思ってもみなかったとゆーか、今年はいきなり幻冬舎が来たとゆーか、気がつけば幻冬舎の本をよく手に取っていたとゆーか。そーいえば、南風さんと「年明けから超モンダイ作!」と小騒ぎした、沙野さんのワンコなアレ(…)も幻冬舎。なにげに本棚にはリンクスロマンス増えてるし。……。結果的に目が離せないレーベルが増えてしまった…むむむむむ。
出るのは今年になるのか、そして誰が絵付けをなさるのか、わからないのだけども――柏枝先生がお話された、講談社ホワイトハートから出るという、
『厄介な連中』スピンオフ(ハリーが主人公)の絵師は、ぜひとも小石川あおさんで、というリクエストはダメ?…とても合ってると思うんだけど…。
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
【睦月の新人】:『ゴールデン・アワーズ・ショウ』 山田たまき 二見書房 2008年……読み手のブレスの大切さ

■『ゴールデン・アワーズ・ショウ』 山田たまき
ISBN:4576072382 挿絵:榎本 二見書房 2008/01/15 ¥500
進学を機に東京で一人暮らしを始めた安斎は、格安物件「経世館」の一員に。家主の鳴瀬は同じ大学の学生で、大物議員の息子でありながら週末はドラァグクィーンのバイトで稼いでいるという変わり種。ショータイムを目の当たりにし度肝を抜かれた上、女装の鳴瀬から濃厚なキスを受けた安斎はそれ以来、気のいいあんちゃんで御曹司で同性しか愛せないという多面体な男に翻弄されることに…。
「シャレード新人賞期待賞」受賞作。書き手の山田さんは、この作品でシャレード・パール文庫からデビュー。デビュー作掲載号(「シャレード11月号」)が、そのまま廃刊号になってしまったという、いささか気の毒な門出だったけれども、ちゃんとパール文庫から単行本が出て良かったね、うんうん。
ただなあ…ドタバタ系ラブコメディのはずなのに、ラブもドタバタも、いったいどこが盛り上がりなのかわからないまま、ストーリーが終了してしまったような印象がある。
理由は簡単。山田さんの文章は、一文に連体詞と副詞が多いので、ちょっとしたシーンでも仰々しくなりがち、読んでいて疲れてしまう。そして話が単調になれば、文章で身構えた分、肩透かしの度合いも大きくなる。さらに、書き手による解説/実況中継かと思うような誇張/漸層法で綴られていくので、そんなブレスのない、常にクレッェンドな文章が続けば、読み手はどこが盛り上がりなのか、どこで盛り上がっていいのか、わからなくなってしまう。押してばかりで引くことを知らない、強弱はどこに?…とでもいうか。行間やゆとりを与えられない読み手はツライよ?…こういう文章は、どうしても情感や色気が出にくいので、BLには不向きだと思う。実際、ラブシーンもいつの間にか始まっていて、それを冷めて読んでいる私がいた。でもだから悪いというのではなく、それも個性のひとつだし、たとえばシニカルなギャグを絶妙に挟み込んでくれば、逆に効果的で、コメディ向きといえる文章なんだけど……これがなあ、クスリとも笑えなかった。田舎の高校生の生態など、面白いことを書いているはずなのにね。残念。強弱の付け方が巧みで、なおかつ、読み手と書き手のリズムを考え、面白いコメディを書いてる人がシャレードにはいるじゃない。谷崎泉っていう作家が。う〜む。
いっそのこと、ボーイズラブストーリーではなく、ボーイズストーリーのほうが良かったか。家主がトンデモなら、店子もキョーレツ個性派揃い、そんな奴らに囲まれてあっぷあっぷの毎日な主人公、事件が次から次へと起こってさあ大変!というような。鳴瀬がドラァグクィーンである理由付けが弱く、私に云わせれば至極真っ当な男で、結局、親には逆らえない学生さんだった。ほかの学生もフツー。設定がちょっとハデなだけ、話は「鳴瀬がいなくなって帰ってきたら安斎がホレていた」という、お決まりの内容だったような。面白くなる要素は、いっぱい転がっていたと思うんだけど…。でもパール文庫はページ数が少ないので、いろいろ描き込むには難しいのかもしれない。
山田さんの文章/文体について、難癖つけたようなことを書いたけれど、否定はしない。個性がなくなるほうがイヤだし、いくらでも面白くすることはできるはず、色気や情感だって書き方次第だと思う。修飾を削ってシンプルに――クライマックスはどこで、なにをどう読んでもらいたいのか。そして
読み手のブレスを考えてみて。新人さんだから、私は「好みじゃない」と1作で斬り捨てないよ。経験積んで、頑張って書いて下さい。待ってます!
評価:★★☆(とりあえず様子見)
私にとって初パール作品。シャレードHPに「パール文庫はオビもついてます☆」と(嬉しそうに)書かれてあって、「おお!とうとうシャレード系にもオビがついたのね!」と現物を見てみたら、たしかにオビ紙がついていて、パール色に輝いていた。う〜む。ゴールド文庫・シルバー文庫と続く…わけないか。
ZERO STARS … 論外/問題外作
★ … お好きな人はどうぞ。
★★ … つまらない。
★★★ … 退屈しない。なかなか面白い。
★★★★ … とても面白い。佳作/秀作。エクセレント。
★★★★★ … 天晴れ。傑作。ブリリアント。
ウェルカム!新人さん
…とゆーわけで、2008年に
単行本デビューされたBL作家(コミックおよびノベル)の本を1〜2冊ほど取り上げ、該当月中に感想を書いていこうかと思っています(1月と2月はもう過ぎちゃったので、書くのはこの3月になります)。
私はね、ものすごーく期待しているんですよ、新人のみなさんに。新刊オビ惹句に「期待の新人!」だの「デビュー作!」だの書かれてあろうものならば、必ずその本を手に取り、凝視してしまうほど。
ホントに惹句だわ。「今月は新人がいないの!?」と本屋で新刊を探す私は、オッシーいわく「トランス状態に陥っているアブナイ人」らしいです。…ほっとけ!
では、ボチボチと。
お知らせ

コメントスパムがヒドイので、しばらくDiaryユーザーのみのコメント受付になります。
このブログサイトは、その程度しか対策が取れないのです…。ご連絡ある方は秋林堂までお願いします。
レクサスに乗って (2)

会社でのデキゴトロジー。
上司Sさんのお供で、遠方の取引先へ社用車で出張することになりました。乗車するのは、何台かある社用車のうち、たまたま残っていた「なんだかんだで1千万」のレクサスLS。社用車とはいえ、適当に乗り回すわけにもいかない高級車に当たってしまったSさんは、いつもと違ってかなり緊張の面持ちでハンドルを握っていました。
Sさん:「あ〜緊張するんだよな〜この車」
私:「お高いですもんね〜」
Sさん:「しかも、行き帰り俺ひとりで運転しないといけないしなあ
(注1)」
私:「すみません…」
注1:秋林はペーパードライバー。ゴーカートすらマトモに運転できず、同乗したDさんに「コーナリングの基本がなってない!」と、お叱りを受けたほど 呆られたほど(3/6 Dさんのご申告を受け修正…詳細はコメント欄をご覧下さい)、ドライブセンスがない。Sさん:「T社に行く前に、途中で某社営業の押尾(仮名)を拾っていくから」
私:「え?…押尾さん(仮名)とは、T社で合流するんじゃなかったでしたっけ?」
Sさん:「いや、時間があるから、さっき押尾(仮名)に電話して、某社に寄って拾うことにしたって云ったんだよ」
私:「はあ、そうですか。わかりました」
某社に到着。
駐車場にオッシー現れるも、Sさんは「トイレに行くから」と某社の中へ。
オッシー:「おはようございます」
私:「おはよー。今日はよろしくねー」
オッシー:「こちらこそ。あれ?今日は珍しくレクサスなんですね。(ちょっと考えながら)そっかレクサスか…しかもボディカラーはシルバー…」
私:「そうなんだよねー、私、去年、このレクサスのドアの開け方で失敗しちゃってさ、すごい警報が鳴っちゃって、その数秒後、レクサスセンターからSさんの携帯に緊急コールがかかってきてね、Sさんに怒られちゃったの。だからこの車にはあまりいい思い出なくって」
オッシー:「……(私の話をまったく聞いていない)。」
私:「ちょっとちょっと!…私の話、ちゃんと聞いてる?」
オッシー:「(完全無視しながら)…あの。僕が助手席乗ってもいいですか?」
私:「へ?…別にいいけど。でも後部座席のほうが楽じゃない?…いいの?」
オッシー:「助手席のほうがいいんです。だってコレ、シルバーのレクサスでしょ?運転席と助手席のSさんと僕、なんか
『エス』の宗近と椎葉みたい(注:2)じゃないですか♪」
注2:『エス ―残光―』(『エス』第4巻。英田サキ著/奈良千春画 大洋図書 2006年)232ページ参照。私:「………。」
オッシー:「なんです?…なんか云いたそうですね?」
私:「どっちが宗近で椎葉なのか、考えるのも恐ろしい……。悪いけどさ、どう見たって
哀川翔と押尾学にしか見えないよ」
オッシー:「………。」
私:「…なによ?」
オッシー:「じゃあ秋林さんは鹿目、ってことでどうです?」
私:「いや、そういう意味じゃなくってね…」
オッシー:「(聞いていない)――あ、でも鹿目は後部座席に乗らないか。だったら安東ってのはどうです?」
私:「!!!!!!!!」
だれかー!この腐り切った男に天誅を!
きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
↓オッシーの事情
http://diarynote.jp/d/25683/20060328.html(いま思うと、これがすべての始まりだったような…←英田兄貴風)