■ 中学入試とは、私学にとって、一つの選抜以上の意味合いがある。今後6年間をどのような目的を持って過ごし、学んでもらいたいと思っているかという学校の姿勢を示す場でもあるからだ。様々な設問を通じて、生徒に主体的に考えるきっかけを与える。それは、学校と生徒との、一つの対話の場面ともいえる。
■ その意味で、今年の雙葉中学校の入試問題は、非常に鮮烈かつ強烈だ。各教科の設問で問われているものは、各教科における知識や思考力など、高度ではあるが、特別奇抜なわけではない。しかし、問題に使用している題材や出題の形式に目を向けると、そこに学校からのメッセージを強く感じ取ることができる。
■ 各教科の中から理科の問題に注目してみる。例えば、理科の大問1で問うている内容は、理科の「浮力」についての理科的な知識や思考力だ。しかしそれを問うための題材として、地球温暖化および海水面の上昇という例を用いている。
■ また、理科の大問4、地震についての設問の問1は、五つの観測地点に置かれた地震計の記録を震源からの距離順に並べ替えさせるという、「振動」についての知識があれば答えることができる問題だ。しかし、緊急地震速報についての説明を挟んで出題される問2は、昨年7月に起こった新潟県中越沖地震において、緊急地震速報がどのように出されたかという記事を元に、強弱二種類の揺れのタイムラグと震源からの距離の関係を説明させる問題であり、さらに問3は「このことから考えられる、緊急地震速報の問題点はどんなことですか」というシンプルな一文なのである。
■ この一文を目にした受験生は、地震計の記録や記事などの与えられた情報と、今まで経験した自分の体験を元に、緊急地震速報の問題点について考え始めていく。テレビやラジオだと、電源が入っていないと受けることができないし、携帯電話で配信されたとしてもそれは同じだろう。スピーカーではエコーがかかってうまく聞き取れないかもしれない。弱いゆれをキャッチすることができたとしても、震源からの距離が近いところでは情報を知らせる前に強いゆれが発生し、被害を防げないという根本的な問題がある。これについては、どうしたらいいだろうか。もっと根本的に違った地震予知の方法が必要ではないだろうか…
■ 生徒たちはこの問いをきっかけに、どうやって速報を出すかという「手法」に限らず、地震現場の状況を自分の頭でイメージしながら、社会の現状にしっかりと眼を向けて思考を拡げていくことができるのだ。
■ 各教科で求める力を見る際に、実際に社会で起きている問題を題材として用いる。これにより、受験生は、入試問題を解くだけではなく、何のために学ぶのか、という問いと向き合うことになる。入試というコミュニケーションの場を用いて、「学ぶこと」が直接「社会とつながる手段」になる可能性を見いだす瞬間があるのではないだろうか。
■ 「SIMPLE DANS MA VERTU FORTE DANS MON DEVOIR(徳においては純真に、義務においては堅実に)」という校訓のもと、『自分を含めすべての人を大切にできる人』、そして『良き国際人』を目指す雙葉中学校。その強いメッセージを感じ取れる入試問題を経て入学した生徒たちの前には、自分の眼で、頭で、心で、社会と向き合っていく6年間が拡がっている。
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