ESから大脳細胞 培養方法を確立 理研神戸
2005/02/07

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市中央区)の笹井芳樹・グループディレクター(42)の研究グループは六日までに、マウスの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から大脳を形成する細胞になる「大脳前駆細胞」をつくる方法を確立した。世界初の成果で、ヒトで応用できる可能性が高く、脳疾患構造の解明や新薬の開発、再生医療の実現につながる。同日付の米科学雑誌「ネーチャー・ニューロサイエンス」オンライン版に発表された。

 ES細胞を特定の細胞に導くには、さまざまな因子を加えて分化を促す方法が一般的だが、同グループは逆に因子の働きを抑える「SFEB法」を確立し、大脳の細胞の前段階の「大脳前駆細胞」をつくった。

 さらに、グループはこの細胞からパーキンソン病や脳性まひなどにかかわる「線条体」や、アルツハイマー病の初期症状にかかわる「マイネルト基底核細胞」などをつくることにも成功した。

 脳の大脳以外の部分については、世界の研究者によってつくる方法が確立されているが、大脳の細胞は偶然できることはあっても、意図的につくることができた例はなかった。

 同センターは文部科学省からヒトES細胞を使った研究を進める施設として確認されており、すでに京都大からヒトES細胞の提供を受けている。グループは「一年以内に、成果をヒトES細胞で確認したい」としている。

 笹井ディレクターは「アルツハイマー病など、大脳の病気の発症メカニズムを解明し、新薬を開発する研究が、試験管でできるようになる。将来は、つくった神経細胞を患部に移植する再生医療も視野に入る」と説明する。

 グループは今後、大脳のうち、記憶をつかさどる「海馬」などの細胞をつくることにも取り組む。笹井ディレクターは「人間の知能の解明にも役立つのではないか」と話している。(森本尚樹)

・特集「医療産業都市

[ 閉じる ]
Copyright(C) The Kobe Shimbun All Rights Reserved