「昭和の声」で見る人を魅了した小林恭治さん |
国民的ギャグ「シェーッ!」でおなじみ、「おそ松くん」の「イヤミ」の声優として人気を博した小林恭治さんが8日未明、くも膜下出血のため亡くなった。75歳だった。中年サラリーマンがアニメや海外ドラマ、CMナレーションで聞き慣れたあのおなじみの声は、もう聞けない。
小林さんは「イヤミ」をはじめ、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」の「マシンガン・ダンディ」、「リボンの騎士」の「王様」など、数々の名アニメキャラクターを演じた。ナレーターとしても、「巨人の星」や「太陽にほえろ」、多くの企業CMを担当、テレビ創世記から、その声がお茶の間から途絶えることはなかった。
小林さんの長女で日本テレビ報道局政治部記者の小栗泉さん(42)はそんな父親について、「仕事に対してプライドを持っていましたし、頑固な父でもありました」と振り返る。
物心付いた頃から、ブラウン管を通して父の声を聞いて育った泉さんだが、父娘でそろって番組を見たことはない。「公私がハッキリした人でしたから。それに照れ臭さもあったのでしょう。テレビから父の声が聞こえてくるのが、誇らしかった」。
長男で広告写真家の恵介さん(48)によると、小林さんが1番好きだった仕事は、お気に入りの詩や文学作品の朗読だったという。
「仕事についてあれこれ話す人ではなかったんですが、1度だけ、『家族を食わすには、好きなことばかりやっていられねえんだ』って、ぼやいていたことがあったんです。それが強く印象に残ってますね」
ベテランとあって、後輩からの信望が厚く、“職人”として尊敬されていた。「おそ松くん」や「サザエさん」の声で有名な声優、加藤みどりさん(67)は駆け出しの頃、あるナレーション番組で小林さんの神業に震えたという。
「60分の番組で60枚の原稿を読む仕事でした。予定では60秒くらいオーバーする文量だったんですが、あの方は『じゃあ、1枚に付き1秒ずつ詰めて読んでくから』っていとも簡単にこなしちゃうんです。もう鳥肌立っちゃった」
そんな大先輩だが、加藤さんが「キョウちゃん」と呼べるほどに親しみの持てる人柄だった。「『おそ松くん』の現場では普段クールでインテリっぽいキョウちゃんが、声をひっくり返して『シェー』なんてやるもんだから、もう現場は大爆笑です。楽しかったなぁ」と振り返る。
後輩がドジをしても「大丈夫」「素敵な声だよ」と励ましてくれた。「もうあんな声優さんは出てこないと思う。小林さんを目標にやってきただけに、本当に寂しい」。昭和を代表する「名人」が、また1人この世を去った。
ZAKZAK 2007/03/12