2006.05.06 代理人観戦記 広沢 一郎
第16回世界コンピュータ将棋選手権 (2006年5月3日〜5日開催)
にて、Bonanzaが優勝
第16回世界コンピュータ将棋選手権において、初出場の[Bonanza]が、並み居る強豪を打ち破り、見事優勝いたしました。
初参加での優勝は、(第一回大会を除けば)大会開催以来初めてのこととなります。
初、ということでまとめますと@初参加で優勝、Aノートパソコンで優勝、Bフリーウェアで優勝、いずれ
も初めてのことです。特に初参加で優勝は、ここ数年上位陣が固定していたコンピュータ将棋界にとって激震
とも言える出来事でした。
なぜなら上位プログラムは既に人間のアマ3〜5段程度の実力があり、新規プログラムが追いつくことは到底
不可能と思われていたためです。また昨年優勝の激指、第2位のKCC、3位IS将棋はいずれも複数人数
で開発しており、チーム力が強さの秘訣と見られていました。例えば優勝の常連、IS将棋(商品名:東大将棋)
には詰将棋のスペシャリストが加わっており、終盤になると通常の思考エンジンに加え、詰将棋エンジンが
詰みの有無を集中して探索するのが特徴でした。
ところがBonanzaは、カナダ在住の化学研究者、保木邦仁(ほき くにひと)氏が独力で制作した将棋プロ
グラムです。技術的には全幅探索とい言って、全ての可能性のある指し手をしらみつぶしに探索して最善手を
見つけるという、シンプルながら実現が難しい手法を用いています。ちなみに詰将棋エンジンは積んでいません
ので、詰みが長くなる傾向があります。
Bonanzaは2005年春にフリーウェアとして登場以来、その強さと人間らしい指し手で将棋ファンの間で、瞬く間に
大きな話題となりました。時にはトップアマや奨励会員(将棋のプロ養成機関)の方々からも「10秒将棋では危な
い」という声も聞こえる程でした。また伝道師なる方まで現れ、短期間にプロ・アマ含め将棋界全体にその名を知
られる様になりました。雑誌のインタビューで将棋連盟の米長会長が「ソフトで一番強いのがカナダだそうで・・・」
と発言されたことがあり、まだ大会にも出たことが無いBonanzaのことを最強だなんて、とその際は思いましたが、
それが本当になってしまいました。さすが会長ともなると読みが深い、というところでしょうか。
さて、今大会において、本来作者の保木氏が参加すべきところですが、既出のとおりカナダ在住で本業が忙しい
ため、代理として私がBonanzaを操作いたしました。
正直なところ保木氏との間では、まずは今年決勝トーナメントに進みたいですね、と話合っていました。大会
は1次予選、2次予選、決勝の順に行われます。1次予選の上位8プログラムが2次予選へ、そこへ昨年の
結果からシード組16プログラムが加わり24プログラムで2次予選を戦い、上位たった5つのみが決勝へ進む仕組
みです。この2次予選突破は極めて厳しい競争となります。
1次予選を全勝で勝ち上がったBonanzaも、2次では巨大なマシンを擁する大学の研究者チーム(しかもそれ
を率いる教授が将棋連盟所属のプロ!)TACOSと、昨年決勝5位の備後将棋相手に負けを喫し、際どい状態で決
勝進出を決めました。
決勝では、さらに決勝シード組3チームを加えた8チーム総当たり戦で順位を決定します。
決勝でも緒戦でYSS(AI将棋の名前で販売されている超有名プログラム。作者の山下さんはコンピュータ将棋
界の古豪・重鎮にして現在もトップを維持されているすごい人)に負け、やはり決勝は厳しいなあ、と思い知らさ
れました。山下さんも、4つもCPUを積んだモンスターマシンを大きな扇風機で冷やしていて、私が日頃使用し
ているノートパソコン+愛用のUSB扇風機で出場したBonanzaとの体格の差が対照的でした。
マシンで言うと決勝2戦目で当たったKCCは、Opteron DualというAMDのデュアルコアCPUを4つも積んでいて、
8コアという大会史上最高スペックで必勝を期していました。ところがノートパソコンのBonanzaはこのモンスター
マシンを撃破してしまいました。
KCCからは、マグノリアも囲碁将棋でエンジンを供給してもらっている関係があり、ちょっと複雑な気分でしたが、
そこは勝負の世界ということで。すみません、シルバースターさん(^^;
KCCに勝ってからは、あれよあれよと勝ちが続き、6勝1敗の成績で優勝を果たしました。
報告を受けた保木さん自身が一番信じられない様子でした。
激指戦など終盤で相手のバグに助けられた将棋もあり運が向いていたことも確かですが、柿木戦や、決勝での
TACOS戦での雪辱など、実力をいかんなく発揮した将棋があってこそ運も向いたのだと思います。
また、今回はコンピュータ将棋協会のホームページで大会がリアルタイムに中継されていたため、
大勢の方が観戦できたことはとても良かったと思います。ネットの掲示板で盛り上がっていましたが、
Bonanzaが多くの応援を受け続けていたことはとても作者ともども励みになりました。
なお、エキシビジョンでは、優勝プログラムとして、加藤幸男トップアマとの対局に臨みましたが、残念ながらまだ
その域には達しておらず、良いところなく負けました。
この試合、保木さんからは、ある程度差が開いたら投了する設定が良いのでは(Bonanzaには投了機能があります)、
と意見があったのですが、事務局と相談したところ、まあ最後の王手攻撃とかもコンピュータ将棋らしくて良いのでは、
ということで詰みまで指す設定で臨みました。
なお、大会の写真等は、以下のブログやHPにさらに詳しく記されております。
■コンピュータ将棋協会ホームページ
http://www.computer-shogi.org/
■コンピュータ将棋選手権ネット中継ブログ
http://computer-shogi-live.cocolog-nifty.com/
■「世界コンピュータ将棋選手権2006」を10倍楽しむHP
http://homepage1.nifty.com/ta_ito/CS2006/CS2006.htm
フリーウェアBonanzaは、以下からダウンロードいただけます。
http://www.geocities.jp/bonanza_shogi/
なお、マグノリアでは今後Bonanzaの商品化を予定しておりますが、保木氏よりフリーウェアとしてもファンの皆様に
楽しんでいただきたい、とのご意見をいただいており、思考エンジンは引き続きフリーウェアとしてもバージョンアップ
される予定です。ご期待下さい。
(ご参考)今大会参加のマシンスペックは以下の通りです。
Sony VAIO SZ-90S
CPU:CoreDuo 2.16GHz
Memor: 1Gb
その他:USBから電源をとる扇風機でマシンを冷やしました。あんなので冷やせるの?と思われるかもしれませんが、
これが結構有効でした。また、BonanzaのNPS値(毎秒読む局面数)は概ね800〜900K、つまり
毎秒80万〜90万局面を探索していました。BonanzaとCoreDuoは相性が良いようです。
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2007年追記
Bonanza市販版「Bonanza 2.1Commercial Edition」の情報はこちら
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