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読む政治:漂流する福田政権 司令塔不在--「誰一人、目測力がない」

 福田康夫首相が目指した武藤敏郎副総裁を昇格させる日銀総裁人事は事実上頓挫した。修正協議の見通しが立たず、揮発油(ガソリン)税の暫定税率維持を盛り込んだ租税特別措置法改正案の年度内成立も難しい状況。ガソリン代値下げの可能性も高まる。宙に浮く5000万件の年金記録のうち約4割が早期の特定が困難なことも判明した。福田政権は難問に的確に対応できず、「漂流している」という表現がぴったりだ。

 漂流状況を作っているのは、福田首相が「何をしたいのか」をはっきりさせないことが最も大きい。

 と同時に首相を支える司令塔の不在も見過ごせない。

 首相は、伊吹文明自民党幹事長らの「小沢代表も武藤氏を容認し民主党はまとまる」という情報などを基に武藤氏昇格で走った。

 伊吹氏も「民主党がもう少し大局的な判断をするという期待は甘かったかもしれない」と誤算を認めざるを得なかった。

 党内には、民主党の小沢一郎代表の真意をキャッチできない「司令塔」への不信が渦巻く。自民党幹事長経験者の一人は「官邸も執行部も誰一人目測力がない」と批判する。

 11日夜、小泉純一郎元首相と古賀誠選対委員長、二階俊博総務会長、武部勤元幹事長が東京都内の料理屋で会食。道路特定財源にも話題が及んだ。

 「民主党の修正案を丸のみしたら、民主党は困るだろうな」。小泉元首相は、首相時代重用した武部氏に断言した。これに対して道路族の代表格である古賀氏、二階氏は押し黙ったままだったという。

 修正協議の糸口を見いだせない状況にしびれを切らした首相は14日、谷垣禎一政調会長に修正案を早急にまとめるよう指示した。

 しかし、調整役は民主党と道路族との板挟みになり、泥をかぶる。自民党内には「谷垣さんに党の全権代表が務まるか」との異論がくすぶり始めた。

 薬害C型肝炎訴訟などの対応をきっかけに、首相の「知恵袋」と呼ばれた与謝野馨前官房長官は1月28日以来、官邸に姿を見せていない。首相に近い閣僚経験者は「与謝野さんが動けば、伊吹さんら党四役や中川さん(秀直元幹事長)、町村さん(信孝官房長官)らがおもしろく思わない」と漏らす。

 安倍晋三前首相は党執行部や内閣に「お友達」を集めて、酷評された。もともと一匹オオカミだった首相は政権運営について、誰に相談しているのだろうか。

 ◇身内から解散封じ

 「解散がなさそうだという状況になってきた。(福田首相が)来年のサミットに出席してからでも遅くないという雰囲気だ」

 2月22日、小泉元首相が講演で衆院選の時期に言及した。

 小泉氏の発言に呼応したのが、自民党の古賀選対委員長。今月12日の講演で、小泉氏との会談での会話を紹介したうえで「時間的余裕を持った解散。できれば任期満了だ」と強調した。

 一方、民主党側は、年度末に揮発油税の暫定税率が期限切れになれば、「ガソリン1リットル25円値下げ」を国民にアピールし、衆院解散に追い込むとのそろばんをはじく。政府・与党が衆院の3分の2で再議決してガソリン価格を元に戻せば、首相問責決議案を提出し、首相の退路を断つ戦略だ。

 しかし、その民主党内にも「首相は解散できずに内閣総辞職に追い込まれるのではないか」(幹部)との声も上がっている。

 菅直人民主党代表代行も周辺に「福田さんが総辞職するか解散に打って出るかは正直読み切れない」と本音を漏らした。衆院の3分の2を失うことを恐れた自民党内で解散阻止の首相包囲網ができると踏んでいるわけだ。

 政権基盤の弱い首相が解散に打って出ることができず、退陣を余儀なくされたケースは、海部俊樹首相(91年)や「えひめ丸」事件の危機管理対応のまずさが問われた森喜朗首相(01年)の例がある。

 海部氏は政治改革法案が廃案になり「重大な決意で事態打開にあたる」と解散をもくろんだが、当時の自民党党内最大派閥の竹下派の反対で踏み切れずに総辞職。森氏は内閣不信任案否決後も政権維持を表明したが、結局、退陣に追い込まれた。

 自民党幹部は「3、4月さえ乗り切れば、当面、重要法案はなく北海道洞爺湖サミットにたどり着ける」と言うのだが……。

 ◇大連立の芽しぼむ

 解散がないとなれば、民主党との対話路線を続けるしかない。しかし、究極のねじれ解消策であり、首相の延命装置でもある民主党との大連立構想の芽もしぼみかけている。

 「今の内閣、自民党執行部(の国会対応)は非常に不可解だ。ただ我が党にとってプラスだ。福田内閣に予期せぬことが起きる感じがある」

 13日夜、東京・赤坂の中華料理店で、衆院当選2回の若手約30人を集めた会合で、民主党の小沢代表は波乱の予感を口にした。

 小沢氏が「不可解」と指摘したのは、2月29日に政府・与党が08年度予算案の採決を強行したことだ。

 2月26日夜、小沢氏は菅代表代行、鳩山由紀夫幹事長らと東京都内で会談し、「政府・与党と信頼関係があれば、(武藤総裁で)真剣に党内を説得する努力をする。それが崩れたら、そんなことは考えない」と語っていた。

 首相と小沢氏。首相側近によると、昨年11月に大連立構想が失敗した以降も、2人は信頼感を共有してきたという。小沢氏側近も「小沢氏は首相を『まともな人間』と言っている」と語る。

 自民、民主の両党首が水面下で気脈を通じていることによって、危ういところで正面衝突を回避してきた。

 政府・与党が今年1月に新テロ特別措置法の再可決に踏み切った際、民主党は首相問責決議案の提出を見送った。1月末に租税特別措置法改正案をめぐる「つなぎ法案」も撤回された。だが、政府の予算案の採決強行をきっかけに、小沢氏は日銀総裁人事での不同意という流れを止めようとしなくなった。

 小沢氏は菅氏との連携を深め、最近は2人で状況分析に余念がないという。大連立に反発が強い党内情勢では、政府に対して強硬姿勢を保持した方が、9月の代表選で再選の道が開けると踏んでいるのかもしれない。

 小泉元首相は「小沢さんも党内の対決路線という枠にはめられてしまった感じだ」と漏らした。

毎日新聞 2008年3月17日 東京朝刊

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