◇群れづくりと繁殖、6年間の奮闘記
全国の動物園関係者が今年度、東京動物園協会発行の季刊誌「どうぶつと動物園」に発表した飼育観察記や写真などで最も優れた作品に贈られる第43回高碕賞に多摩動物公園南園飼育展示係、熊谷岳さん(31)のヨーロッパオオカミの飼育記録が選ばれた。童話に登場するオオカミは悪者の印象だが、群れ全体で子育てに協力する本来の姿を見てもらおうと、群れづくりと繁殖に努めた6年間の奮闘記だ。熊谷さんは「動物園の現場の人から支持された」と喜ぶ。
高碕賞は東京動物園協会の会長在任中に亡くなった高碕達之助さんにちなみ、1965年に創設された。
01年8月、モスクワ動物園から2頭のヨーロッパオオカミが多摩動物公園にやって来た。雄のロボ(1歳半)と雌のモロ(3歳)。野生で保護されたモロの警戒心は特に強かった。ライオンの飼育のようにしかることで管理しても、熊谷さん自身が群れのリーダーのように長時間接しても、人間への依存心が強まる一方で精神面の成熟が遅れ、最初の3年あまりは繁殖に結びつかなかった。
試行錯誤の後、熊谷さんは飼育方針を180度転換し、エサを使った調教や飼育舎への強制入舎などをやめて2頭と距離を置くようにした。例えば、夕食後は飼育舎と放飼場を仕切る扉を開け、出入りを自由にした。
05年3月初め、熊谷さんはモロの腹部の膨らみに気づいた。半信半疑で飼育舎に産箱を作り、その後は一切立ち入らない。3月22日に雄2頭、雌3頭が生まれた。06年4月に雄雌1頭ずつ誕生した時は、野生のオオカミと同様に放飼場に掘った巣穴で出産。07年5月の3度目の出産も巣穴で雄3頭、雌1頭が誕生した。過剰なストレスを与えなかったことが功を奏したという。
熊谷さんは「種の性質や個体ごとの違いを理解することで、その動物の能力を引き出せることをヨーロッパオオカミから勉強させてもらった」と振り返る。今後は「多摩動物公園の立地を生かし、雑木林の中で群れで暮らす姿を見てもらいたい」と思う。新たな夢に向かい歩み始めた。
22日午後2時から上野動物園西園動物園ホールで、熊谷さんの受賞記念講演会が開かれる。無料(入園料のみ)。問い合わせは東京動物園協会(03・3828・8235)。【斉藤三奈子】
〔多摩版〕
毎日新聞 2008年3月13日