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現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月24日(月曜日)付 希望社会への提言(22)―参議院を「地方の府」にしよう・政府と国会を「地域主権」にふさわしい姿に ・憲法改正の論議は「国のかたち」をめぐってこそ これまでの希望社会への提言シリーズで、20年後の日本の未来図を描いてきた。今回は、この国の政府と国会の新しい姿を考えたい。 地域住民の暮らしにかかわることはすべて地域で決める。この地域主権を徹底させ、自治体を独立性の高い「地域政府」へ進化させるべきだ。私たちはシリーズの最初にそう訴えた。 最大の目的は、少子高齢化で社会保障負担が増大すると同時に、国際競争の波が押し寄せる中で、限られた財源や人的資源を効率的に使うことだ。 福祉や子育て、教育などの行政サービスを、地域住民のニーズにあわせて適正なコストで提供できるようにする。その工夫をするための権限を、財源や人材とともに地域政府へ移していこう。そんな未来図を提言してきた。 こうした地域主権が確立した時には、スリムになった中央政府はどういう役割を果たすのが望ましいか。 地域政府にできないことだけを中央政府が担う。この原則に立てば、その役割の中心はおのずと外交や防衛、通貨の管理、通商、治安などになる。 もちろん内政全般に関与はするが、それも政策の大枠まで。地域政府がおこなう行政の細部へは口出ししない。 たとえば福祉なら、全国民に保証すべき最低限の水準設定や大まかな制度設計にとどめる。教育では、地域政府が実施する教育内容を細かく縛るのはやめて、高等教育の充実や最先端の科学技術の育成に力を注ぐ。 分権により、中央省庁が一手に握ってきた補助金の配分や公共事業の個所づけなどの権限は、基本的に地方へ移る。地方の要望を中央へつなぐ国会議員の「口利き」の余地もなくなる。住民の身近で意思決定がされれば、それだけ住民のチェック機能も働きやすくなる。 中央政府がすべてを決め、地方が従うという中央集権国家から、独立性の強い地域政府が中央政府と役割を分担する「地域連合国家」への転換。これが、私たちの描くひとつの国家像だ。 地域連合国家へ転換するのに合わせて国会のあり方も大きく変えたい。 地域政府を代表し、地域にかかわる問題を優先的に扱う機能を、参議院に持たせてはどうだろうか。参議院を「地方の府」とするアイデアだ。 自治体にはいま、地方の行財政にかかわることでも国に一方的に決められてしまうという不満が強い。こうした状態を解消するため、自治体側はかねて、中央と地方の協議の場を法律できちんと位置づけ、その意向を国政へ反映させるように求めてきた。その役割を、参議院に持たせるのである。 地方税法をはじめ地域政府に直接かかわる法案は参議院で先に審議し、衆院はその結論を尊重するようにする。国政と地域にまたがる法案で議決が異なった場合は、両院で協議する。 さらに参院は、中央と地域、そして地域政府間の財政調整機能も担うようにする。いまの地方交付税を、地域政府の共同財源である「地方共有税」に発展させる。そのうえで、地域政府への配分を中央官庁に任せず、参院が中心となって決める仕組みをつくるのだ。 参院議員の選出方法まで見直せば、政権をかけて争う衆議院とは違った参院の性格がいっそう明確になる。 候補者をそろえて政党そのものが争う全国一本の比例区をやめ、都道府県単位の選挙区だけにする。政党は地方問題に意欲や実績のある候補者を地域の意向を反映させて選ぶが、あくまで推薦にとどめる。当選後も、衆院のように政党別の会派をつくったり党議拘束をかけたりすることを避けることにしたらいい。 こうした改革は、いまの憲法の枠組みのなかでも、法改正や各党間の合意によって可能だろう。 さらに大胆に改革するならば、参院議員を地方議員らによる間接選挙で選ぶとか、知事や市町村長ら地域政府の代表が参院議員を兼ねるといった方法も考えられるだろう。 欧州諸国にはこうした実例がある。日本でもいまの憲法の制定にあたっては、地方議会が参院議員を指名する方法が議論された経緯がある。 一方、首相の選出などに優越権をもつ衆議院は「国家戦略の府」だ。世界と日本の課題に取り組む場として、そうした法案を先議する。参院はその結論を尊重しつつ、「再考の府」としてチェックする役割も引き続き担う。 参院はいま、野党による「抵抗の府」の役割も果たしているが、いずれ政権交代が普通になれば、その必要もなくなるだろう。そういう新たな環境を踏まえて両院の性格を分ければ、中央と地域の政治と行政を、より高度で効率的に進めることになるのではないか。 以上はひとつのアイデアにすぎないが、こんな大改革には憲法改正が必要であり、越えるべきハードルは高い。 そもそも地方分権を徹底するためには、憲法でそれを定めた方がよいという考えもある。憲法のあり方についての論議は、こうした「国のかたち」をめぐってこそ深めたいものだ。 PR情報 |
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