【第3章④】快感が続かないのですが──「慣れたからだね」と哲学者
宝くじで一億円当たったら、どれくらい幸せでしょうか?
当選して何百万円を手にしても、さほど大きな満足は得られず、数カ月もたたずに並の幸福感に戻ってしまうことが知られています(注1)。
お金で幸せは買えません。アメリカでは1970年から90年までのあいだに、平均所得は三倍になっていますが、平均満足度は変わっていないといいます。給料が増えても、幸福は増えないのです。
給料が上がったり、大きな家や高級車を持てば、しばらくは喜べますが、すぐ慣れて当たり前になり、満足感は以前と同じになります。
なぜ喜びは続かないのか。
先述したように「快感」とは、精子や卵子(の中の遺伝子)が私を死ぬまで走らせるための道具(アメ)ですから、続かなくて当然なのです。
精子の望みは、出来るだけ多くばらまいてもらうことです。そのためには、絶大な権力でハーレムを築くとか、経済力のあるモテ男になるとか、絶えずライバルの二倍、三倍、努力させなければなりません。途中で満足してもらったら困るのです。
男は単純なので、お金でも車でも恋人でも、目の前の目標にたどり着けば幸せになれると信じています。だからこそ欲しい物を手に入れようと奮闘するのですが、これぞ遺伝子の思うつぼです。
やっとのことでゴールにたどり着いても、一時の燃焼はあわただしく消え、退屈な日常に逆戻り。ショーペンハウエルが言うように、「誰もが自分の思いこんだ幸福を目指して生涯努力し続けるのであるが、それに到達することはまれである。よしまた到達するとしても、味わうものは幻滅だけ」ではないでしょうか(注2)。
今後こそ幸せになれるはずと、新たなアメにつられて次の戦いが始まります。
「これが手に入ったら、どんなに幸せだろう……」と甘い夢を見させ、人間を臨終までだまし通すのですから、「快楽こそあらゆるもののうちで一番の大ぼら吹き」でしょう(プラトン『ピレボス』)。
「死ぬまで不満」だから、何度でも快楽を求める。だから「死ぬまで努力」するようにできているのが、私たちの肉体です。
【注1】
『目からウロコの幸福学
』51頁《本文へ戻る》
オープンナレッジ (2007/03/28)
売り上げランキング: 224031
【注2】
『自殺について 他四篇 (岩波文庫)
』36頁《本文へ戻る》
岩波書店 (1979/01)
売り上げランキング: 33136
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/171233/40505402
この記事へのトラックバック一覧です: 【第3章④】快感が続かないのですが──「慣れたからだね」と哲学者:
コメント