【第3章⑤】バストと細い腰、男はどちらを重視?──「美人」の科学
「快感」という餌につられて、今日も私たちは子孫を残すという究極の目的に向かって努力しています。
「快」の次は「美」の罠に迫りましょう。
かつて神聖だった「美」にも、科学のメスが入れられています。どんな人が美しいかといいますと、男女とも左右対称であればあるほど、魅力が増すようです。
遺伝子に欠陥があったり、病気になったり寄生虫に冒されたりすると、身体の左右のバランスが崩れてきます。左右対称は、健康で病気にかかりにくいことを示すサインなのです。そんなパートナーと結ばれることは、健やかな子どもを生んで確実に子孫を残すことにつながるので、脳は「美しい」と感じるのでしょう。
男性の多くは、ウエストの引き締まった女性を好みます。女性は思春期になると、骨盤が広がって腰回りに脂肪がつくので、ヒップが大きくなります。相対的に腰が細くなるので、「ウエスト÷ヒップ」の値が0.67~0.8に下がります。
この比率は、子どもや閉経後の女性では、たいてい0.8~0.95なので、腰がくびれていることは、女性が若くて妊娠可能なことと、深い関係があります。
受胎の研究によると、ウエスト比0.7の女性が一番妊娠しやすいといわれますが、この0.7という数字は、男がもっとも魅力的と感じる女性の数値と一致しています。
オードリー・ヘプバーンのスリーサイズは80・56・79で、ウェスト比は0.7です。これはオードリーと対照的といわれた、グラマラスなマリリン・モンロー(91・61・86)の比率と同じです。サイズそのものは、重要ではありません。
歴代のミス・アメリカを比べると、彼女たちは大柄だったり小柄だったり、意外なほど異なっていますが、数十年にわたって、たった一つ変わらない特徴は、この比がほとんど0.7だということです(注1)。
どんな女性が美人とされるかは、国や時代によって異ります。しかし、この比率だけはほぼ全ての文化に共通で、何万年も前につくられた旧石器時代のビーナス像でさえ、ほとんどがこの値です(注2)。
男の体は、若くて美しい女性に心を奪われるように作られています。本当は精子に都合がよい女性が美人に見えるだけなのですが、恋する男の目には、彼女こそ平和より自由より尊い真実と映るのです。
プラトンは、私たちは肉体と快楽の「魔法にかけられて」、食べたり飲んだり、触ったり性欲を刺激したりする物だけが真実だと思いこんでいると言います(注3)。「目を通しての考察は偽りに充ちており、また、耳やその他の諸感覚を通しての考察もまた偽りに充ちていること」を示すのが哲学です(注4)。
知性によってしか真理は見えません。肉体の魔法を解いて、知性で真実を探りましょう。
【注1】
『いじわるな遺伝子―SEX、お金、食べ物の誘惑に勝てないわけ
』192-193頁《本文へ戻る》
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【注2】
『心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈下〉 (NHKブックス)
』94頁《本文へ戻る》
NHK出版 (2003/07/26)
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【注3】
「そのような魂はいつも肉体とともにあり、肉体に仕え、これを愛し、肉体とその欲望や快楽によって魔法にかけられて、その結果、肉体的な姿をしたもの、すなわち、人が触ったり、見たり、飲んだり、食べたり、性の快楽のために用いたりするもの、以外のなにものをも真実とは思わなくなる」(『パイドン―魂の不死について (岩波文庫)
』80頁)《本文へ戻る》
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【注4】
『パイドン―魂の不死について (岩波文庫)
』85頁《本文へ戻る》
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