東京都中央区の築地市場の仲卸業者でつくる東京魚市場卸協同組合(東卸、伊藤宏之理事長)が農林中央金庫(農中)への債務9億7500万円を、都の出資する中小企業再生ファンドの介在で、4500万円で買い取っていたことが分かった。差額の9億3000万円の債務が事実上、帳消しになった。都は築地市場の移転計画を進めており、東卸内部の移転反対派からは「移転に絡めて、都が(推進派の)理事長らに便宜を図ったのではないか」との声が上がっている。
東卸は約800の仲卸業者が加盟する築地市場の中心的存在。債務は、業者向けの立て替え金が焦げ付いたもので、歴代理事長が個人保証してきた。
05年5月30日の東卸総代会議事録などによると、農中はこの債権を、都が04年10月に設立した中小企業再生ファンド「東京チャレンジファンド投資事業有限責任組合」に05年3月に譲渡。ファンドはこれを翌月、東卸に売却した。農中からファンドへの譲渡価格は明らかにされず、どちらが損をしたかは不明だ。総代会で伊藤理事長は「東京都の支援も頂き、一件落着した」と、都の関与を示唆した。
ファンドは、中小企業の支援を目的に都が25億円出資して設立。仮に農中からの債権購入価格が、東卸に売却した4500万円より高ければ差額は損失となり、税金が処理に充てられた形となる。一方、農中が損失を出していれば、農中の出資者から追及を受ける可能性がある。一連の債権と金の流れについて、都金融課、農中とも「個別のケース」を理由に説明を拒んでいる。
東卸は市場移転賛成派と反対派に割れており、反対派の理事らは「密室で決められた」と、不透明な取引を問題視している。伊藤理事長は「私から(債務処理を)都にお願いしたことは全くない。(処理結果について)経理担当役員と顧問公認会計士から報告を受けただけ」と話している。【日下部聡】
毎日新聞 2008年3月24日 2時30分