イギリスで笑う 3月22日放送分 |
「イギリスの笑い」と言えば、最近なら『Mr.ビーン』、ちょっとお詳しい方なら『モンティ・パイソン』などが挙がります。世界中のどこにでも「笑い」はありますが、イギリスの笑いはちょっと独特なんだそうですね。
そこで本日はそんなイギリスの笑いにまつわる当店のお客さまのお話を、ここで少しだけご紹介させていただきます。皆様のご意見・ご感想も、ぜひこちらからお聞かせ下さい。 |
■ | 小田島恒志さん(早稲大学教授)の
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サマセット・モームの『蟻とキリギリス』という短編小説がある。お馴染みのイソップ童話のような「働き者と兄と道楽者の弟」が登場するお話で、兄は迷惑を掛けてばかりいる弟を苦々しく思ってる。
ところがある時、弟は母親ほども年の離れた未亡人と結婚して大金持ちに。マジメに生きてきた兄は「こんな不公平なことがあるか!」と叫ぶ……という、イソップ童話を真っ向から否定するお話。イギリスの笑いというのはこういうもの。 サマセット・モームだって別に「遊んで暮らせ」と言ってるわけじゃない。でも世の中にはそういう理不尽なことが現実に起こりうる。その可笑しさを笑うのがイギリスの笑い。 喜劇に限らず、イギリスの戯曲は見終わった時に「だからなに?」と思う作品が多い。シェイクスピアも例外ではなく、『リア王』でも心の綺麗な娘は死んでしまう。これがアメリカだと最後に必ず正義や意味がある。弱者は努力すれば報われるし、悲劇にも救いがある。 かつてイギリスでも「もっと道徳的に」と叫ばれ、『リア王』もハッピーエンドに改編されて上演されていた時期があった。でも結局、そういう人たちは海を渡ってしまい、今のイギリスとアメリカになった。
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■ | 大森三美さん(海外コーディネーター)の
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イギリスでは金曜日のテレビはコメディ一色。夕方から夜遅くまで、コメディ・ドラマやコメディアンのバラエティ・ショー、コメディアンだらけのクイズ番組などを放送している。
ちょっと前は『リトル・ブリテン』という番組が大人気だった。マットとデヴィッドという2人のコメディアンが5分くらいの寸劇を次々に繰り広げる番組で、フィジカル系のネタも多いので子供たちにも人気だった。 私は『オンリー・フールズ・アンド・ホーセズ』というコメディドラマが好き。ロンドンの下町の公団住宅に住む主人公とその弟がいつもお金儲けをたくらむお話なんだけど、70年代に始まったドラマなのに古さを感じさせない。今でもクリスマスに特番が放送されるほどの人気番組。 最近なら『ザ・マイティ・ブーシュ』がお気に入り。これはラジオドラマからテレビに移った珍しい番組で、ジャズが好きな男とモッズが好きな男、2人の男性が主人公。シリーズ1では2人は動物園の飼育係で、いろんな爆笑ドラマを繰り広げていた。 イギリスでは若い子たちがパブに集まって飲む時などは、話題がちょっと途切れるとみんな小話の1つや2つは披露する。そういう国民性なのかもしれない。
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■ | ピーター・バラカンさん(ブロードキャスター)の
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日本ではドキュメンタリーで知られるBBCだけど、実はバラエティもバリバリ。僕が子供の頃はまだ少しお堅いイメージがあったけど、60年代にビートルズが出てきた頃から、その世代のコメディアンを起用してどんどん過激になっていった。
その最たるモノがモンティ・パイソン。彼らを起用してBBCは大きく変わった。モンティ・パイソンは「タブーのない笑い」なので、BBCをネタにしたコントもやる。それを認められるようになったのがBBCとしては画期的だった。 BBCに限らず、モンティ・パイソン以降、イギリスのコメディ番組は過激化した。有名なのが『スピッティング・イメージ』。有名人そっくりの人形を使った過激なコメディで、女王陛下から首相まで、あらゆる人を風刺していた。 イギリス人は自虐的。自分が笑われた時に一緒に笑えないと「野暮」と言われる。この客観性はイギリス人を理解する上で欠かせない。たとえばレイモンド・チャンドラーの客観的な文章は極めてイギリス的。 そんなイギリス人の僕が日本に来て、特に気に入ったのはシチュエーション・コメディ・ドラマ『浮浪雲』。息子を「新之助」という名前にしてしまったほど好きだった。
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■ | 河津孝宏さん(WOWOW映画部)の
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『The Office』はリッキー・ジャーヴェイスという人が作・主演のコメディ・ドラマ。「BBCのドキュメンタリー番組があるオフィスに密着取材する」という設定なので、主人公がカメラ目線で話したりする。
中年サラリーマンの悲哀をリアルに切り取ったコメディなので、見る人によっては「痛い」という人もいる。まさに「シニカル」という言葉がピッタリ。ジャーヴェイスはこの番組であらゆる賞を総なめにした。 そのジャーヴェイスの次の作品が『エキストラ』。こちらは映画やドラマの「エキストラ」の日常をやはりドキュメンタリー・タッチで描いていて、エキストラの面々の下世話な思いやセコい考えを会話の中に滲ませる。 1話ごとに必ず本物のスターが登場するのも特徴で、たとえば今度WOWOWで放送するスペシャル版にはクライヴ・オーウェンとジョージ・マイケルが出演する。その他、過去にも綺羅星のような大スターが「撮影現場のスターはこんなに嫌なヤツ」みたいな登場の仕方をしている。 ジャーヴェイスは40代中頃で、昔はポップ・アイドルみたいな仕事もしていたらしい。いろんな人が共有している思いをすくい上げるセンスは天才的。
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■ | 須田泰成さん(コメディ・ライター)の
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2月、ついにモンティ・パイソンの日本語吹き替え版DVDが出た。さらに僕も関わった台本集も発売された。向こうでは「コントの台本集」は1つのジャンルとして確立していて、モンティ・パイソンはそれが発売された最初の1つ。
モンティ・パイソンも最初は失敗が多かったらしい。でも回を重ねるごとにこなれてきて、30分の番組を30分で撮り終えるようになっていった。これは相当リハーサルをしっかりしていないと無理なはず。 モンティ・パイソンの第1シリーズは69年で、最後の第4シリーズが終わったのは74年。つまり5年で45回しか放送していない。日本で言えば1年分でしかない。だからコントを書くのも1日1本だったらしい。 朝起きて、2時間くらいアイデアを練って、お昼を食べて、その後に台本を書いて……なんて優雅な彼らの生活ぶりは、日本の放送作家には考えられない。しかも会議と収録も2週間に1度。それだけ熟成させているので良いモノができたとも言える。 第1シリーズから20年が経った1989年、ある雑誌の特集タイトルで「National Anthem(国歌)」と謳われたモンティ・パイソン。それくらいイギリスでは親しまれている。
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■ 放送曲目リスト |
Time | Title | Artist | Label | Number |
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9'38" | It's All Right With Me | Peggy Lee | Universal | UCCU-1156 |
21'16" | At Sandown | Morgana King | RCA | BVCJ-2035 |
33'15" | Getting To Know You | Nancy Wilson | Capitol | 72435 33091 2 1 |
43'18" | I Was A Little Too Lonely | Nat King Cole | Capitol | CDP 7 48328 2 |
49'20" | Sit On My Face | Monty Python | Capitol | TOCP-67187 |