4月から75歳以上の後期高齢者医療制度が始まるのに伴い、国民健康保険の保険料を滞納している人に発行する「資格証明書」の対象外だった75歳以上の人も、新たに交付対象となる。交付されると、本来は1割の負担で済む医療費を、いったんは全額自己負担しなければならなくなる。高齢者にも「ペナルティー」を導入して滞納者が増えることを抑えるのが目的だ。だが、受診を我慢して症状が悪化するお年寄りが増えるのでは、との懸念も出ている。
国民健康保険法には「1年以上の国保保険料滞納者への資格証明書発行」や「1年半以上の滞納者への保険給付一時差し止め」などの規定がある。これまで75歳以上は、資格証明書の発行対象外と明記されていた。老人世代は現役世代より収入が低いのに受診機会が多いことなどが理由だ。
厚生労働省は後期高齢者医療制度の発足に合わせて除外規定をなくし、75歳以上にも資格証明書を出す方針に転じた。06年度の国保の保険料収納率は90.39%だが、新制度ではこれまで子どもなどに扶養され、保険料を払わずに済んでいた約200万人も新たに保険料を負担しなければならず、未納者が増えかねないとの危惧(きぐ)が背景にある。
新医療制度の保険料は、平均で月額6000円程度。新制度に加入する約1300万人のうち、年金額が年間18万円未満で、保険料が年金から天引きされない約250万人の一部が発行対象になると厚労省はみている。
既に国保では、証明書を受けた人が治療を受けず、重症化してから病院に運ばれる事例が一部で社会問題化している。開業医ら10万人が加入する全国保険医団体連合会は「お金のない人は受診できず、健康面でも格差が広がる。滞納対策とは別次元で、国民皆保険制度を崩す」と批判している。【吉田啓志】
【ことば】◇資格証明書◇ 1年以上保険料を滞納している国民健康保険加入者に市町村が保険証を返還させ、完納するまで交付する。交付されると医療機関の窓口で医療費を全額支払わねばならない。後日領収書を添えて市町村に申請すれば、自己負担分を除いて払い戻されるが、滞納分と相殺される場合も多い。発行件数は00年に9万7000件だったが、07年は34万件に達した。
毎日新聞 2008年3月24日 2時30分