現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月23日(日曜日)付 総統選挙―台湾政治がまた進化した台湾の総統に国民党の馬英九・前台北市長(57)が当選した。国民党にとっては8年ぶりの政権奪還である。 国民党といえば、台湾の人々には複雑な思いがある。約60年前、中国の内戦に敗れた国民党は台湾に逃れ、独裁統治を長期にわたって続けた。武力弾圧で大勢の住民が犠牲になった2・28事件の悲劇は、外来政権の圧政の象徴として記憶されている。 初の台湾出身の総統となった国民党の李登輝氏のもとで90年代、民主化が進んだ。8年前の選挙で、初めて野党民進党の陳水扁氏に総統の座を奪われた。 その国民党の返り咲きである。かつての独裁政党から様変わりしているのはむろんだが、住民の間に拒否感がないわけではない。それが乗り越えられたところに、台湾政治の成熟を見て取ることができる。進化の歯車がまた一つ回った印象である。 国民党は中国との統一を長期的な視野に入れている。台湾独立への方向性を持つ民進党とはそこが大きな違いだ。だが、大陸出身か台湾出身かというかつての対立構図が薄れ、台湾人意識が社会の主流になるなかで、極端な路線は支持されなくなっている。 馬氏も選挙戦では統一色を薄めることに腐心し、チベット騒乱事件では北京五輪ボイコットの可能性さえ口にしてみせた。片や、民進党の謝長廷候補は中国との交流拡大を語るなど、政策選択の幅は狭まっているのが実情だ。 結局、国民党に勝利をもたらしたのは、民進党の陳政権に対する有権者の強い不満だったのではないか。中国との対立をいたずらにあおり、経済政策に失敗したとの批判を受けた。 米ハーバード大学で法律を学んだ馬氏の、清潔でスマートな印象も好感されたに違いない。 馬氏と国民党は今後、長年の独裁時代に染みついた党の利権体質や腐敗からの脱皮を徹底できるかどうかで真価を問われることになろう。 民進党が推進した「台湾名による国連加盟」を問う住民投票が同時におこなわれたが、不成立に終わった。これも陳政権批判と重なる。神経をとがらせてきた中国は胸をなでおろしているだろう。 中台の関係は安定の方向に進むと予想される。中国との融和をはかる国民党の政権復帰を、中国側は歓迎しているに違いない。だが、チベット騒乱で台湾世論の反発は強まっている。大陸経済にのみ込まれるのではないかという懸念も抱いている。性急な接近はかえって摩擦を呼び起こしかねないことを中国側は常に頭に置いておくべきだろう。 中台間の緊張緩和は、この地域の安定を望む日本や米国にとっては好材料だ。中国には、台湾の対岸に並べたミサイル群を撤去し、海軍力の増強を見直すなど、信頼感を増すための努力をしてもらいたい。
18歳成人―前向きに論議しよう20歳をもって成年とする。この明治以来の民法の定めを18歳に引き下げる議論が始まった。 きっかけは昨年成立した国民投票法だ。憲法改正の手続きを定め、投票できるのは18歳以上と決めた。世界では18歳選挙権が一般的で、日本でも若い世代の声を政治に反映させようというのだ。 国民投票法が再来年5月に施行されるまでに、選挙権のほか、民法などの成人年齢も見直すことが定められた。まず法制審議会が民法の成人年齢を引き下げるべきか検討することになった。 民法だけでも関連条文は約50に及ぶ。関係する法令は308にのぼる。成人年齢の引き下げは様々な影響がある。 私たちは国民投票法の成立の前から、社説で「選挙権の年齢を18歳に引き下げるべきだ」と主張してきた。 少子高齢化が進むなかで、税金や社会保険料の負担がのしかかる世代の声をもっと尊重すべきだと考えたからだ。住民投票ではすでに18歳以上に投票権を与えた地方自治体も出ている。 18歳以上に選挙権を与えるなら、民法でも18歳を成人とすることは自然な流れといえないか。そうなれば、18、19歳は親の承諾がなくても、契約したり結婚したりすることができる。それは若者の権利を広げることになる。 一方で、18、19歳を大人と扱うことには根強い反対論がある。まだ精神的に未熟で、きちんとした判断ができないというのが大きな理由だ。 何歳になれば精神的に成熟し、判断力が備わるのか。これは個人差もあって、なかなかむずかしい問題だ。 そもそも20歳を成人とした理由がよくわからないと法務省はいう。江戸時代まではほぼ15歳だった。それが明治になって20歳に引き上げられたが、国民的な議論のないまま決められたようだ。 結局、その時代の若者のありようや世界の流れを見て判断するしかあるまい。 引き下げ反対論の背景には、様々な法律の保護の網から18、19歳を外すことへの心配もある。 たしかに権利は責任を伴う。親の承諾なしで契約できることは、それが不利なものであっても取り消せないことを意味する。だが、詐欺まがいの契約に対しては、年齢に関係なく個別に対策を立てるのが本筋ではないだろうか。 少年法の対象から18、19歳を外すことには抵抗が最も大きいかもしれない。だが、18、19歳はいまでも死刑が適用され、17歳以下とは違う扱いになっている。こうした点も考えて、多角的な議論が要るだろう。 20歳未満に飲酒や喫煙を禁じる法律をどうするかも身近な問題だ。飲酒はともかく、喫煙の害は年齢を問わず深刻だ。そこから改めて論議をした方がいい。 法制審議会は専門部会を立ち上げた。国民の幅広い意見を反映させつつ、前向きな議論を期待したい。 PR情報 |
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