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【社会】

月面基地、わが技術で 「きぼう」で活気、ゼネコン研究陣

2008年3月22日 夕刊

 水のない月でコンクリートを作る技術、地球から3万6000キロメートルの静止軌道に浮かぶ巨大なソーラーパネル衛星、月面を掘削する大型機械−。こんなSF映画のような技術を研究する建設会社がある。スーパーゼネコンと呼ばれる大手の一角、清水建設だ。日本初の有人宇宙施設「きぼう」の取り付けも始まり、同社の技術陣は活気づいている。

 清水建設の宇宙・ロボット技術プロジェクトで責任者を務める金森洋史プロジェクトリーダーによると、同社の宇宙研究部門が発足したのは建設業界がバブル経済に沸いていた1987年。大手ゼネコン各社は深海や砂漠といった「新天地」を求めて極地での建設技術を競い合った。中でも究極の極地といえばやはり宇宙で、宇宙での建設技術に関する研究会には一時、20社近くが加盟していたという。

 しかし、バブル崩壊とともにゼネコン各社は目先の利益を確保することに追われ、採算が不透明な研究は次々と中止した。大手ゼネコンで宇宙部門を残しているのは現在、清水のみだ。同社では金森氏を含めた8人が宇宙プロジェクトに配属されている。

 プロジェクトの具体的な中身としては、月の土壌の性質を模した実験用の砂の製作や、宇宙利用も視野に入れた建設用ロボットの開発といった仕事が大半だ。90年代まで続いていた米宇宙産業との共同研究も今は途絶え、日本にある宇宙航空研究開発機構からの委託研究が多い。

 月面探査車の開発にも携わる立命館大学の建山和由教授は「現実的に投資を回収できる見込みは今のところ全然ないが、将来的には宇宙での建設技術も必要になる」と話す。

 「コンクリートによる月面基地は本気で狙っている」と金森氏は力説する。水のない月に大量の水を地球から運ぶことは事実上不可能だ。水がなくてもコンクリートを作るといったプロジェクトも、昨年秋の月周回衛星「かぐや」の打ち上げ成功以降盛り上がりを見せている。中国、インド両国が、有人宇宙飛行や商業衛星という宇宙分野で急成長を遂げていることも、国内の研究者らには大きな刺激だ。

 宇宙機構によると、2025年ごろには月面基地が具体化する見込み。ただ、世界の宇宙研究費の8割を拠出する米政権の意向にも大きく左右され、実現は未知数だ。

 「実現するころには会社にいないだろうが、月面基地にはぜひわれわれの技術を使いたい」。そう語る金森氏の目は真剣そのものだ。

 

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