自分は何者か、という哲学的な自分探しではなく、職場で、社会で自分はどのような人物像に見られたいと思っているのか。それをはっきり選んで磨いていこうと提案するのが杉村さんだ。
企業の個性をはっきりと打ち出す、あるいは個人で活動する画家や料理人、モデル、また新卒者など差別化が重要視される人々の個性を立てていくマネジメントにも携わる。
「自分らしさとか、自分の個性を感じ良くはっきり見えるようにするのは、コミュニケーションの技術として大切なものです。自分探しのような混沌(こんとん)とした問いではなくて、私はこういう人間なので、どうぞ気持ち良く付き合ってくださいねという表現。日本人はずっとこれが苦手で苦しかったのではないでしょうか」
杉村さんはこれを「キャラ立ちの技術」と名付けた。相手が自分を理解しやすいように、見せたい自分をていねいに育てていくそうだ。
「気付いたのは私が若い部下を持った時のことでした。クライアントに提出する仕事の詰めが甘いことを厳しく注意していたのですが、部下にとっては、ただ私がむやみに怒っているように思え拒絶反応を起こし始めた。
その時ふと思ったのです。クライアントの求める水準まで仕事を高めるために、あなたに教えている上司だと分かってもらえばいいんだ。杉村が個人攻撃をしているのではなく、仕事の力を付けさせる上司という、汎用(はんよう)性のあるキャラになろう」
本当にそう思っているのだから、そう見えるように振る舞う。杉村さんは実践し、その正しさを実感する。態度で示さなければ分からない。見せたい自分には自分からなればいい。キャラ立ちの技術は杉村さんの本に詳しいが、なんとも面白い着眼である。あなたの印象は自分で決めて磨けというのだ。それもごく普通のビジネス人に向けて。
「どう見られているか不安になっているより、自分で内面と外見の辻褄(つじつま)を合わせていく爽快(そうかい)感がある(笑い)。これは人と付き合う喜びの根源だと思いますよ」
人間の本質をじっと見ている人である。
(4月24日掲載、文:田中美絵・写真:南條良明)
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