2005/02/22付紙面より
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浦和の魅力にグラリ
スポーツ部 盧載鎭記者
苦手な人と、一緒に食事をすることになった。Jリーグ浦和の熊本合宿。地元新聞社のベテラン記者に連れられて行った店に、その人はいた。浦和の犬飼基昭社長(62)だ。気まずいことに、隣の席になった。僕以外は、地元のマスコミばかり。担当になって2カ月。まだチームに愛着があるわけでもない。「これも仕事だ」と割り切るしかなかった。
犬飼社長にはあまりいい印象がない。昨季、チャンピオンシップの直前にインタビューを申し込んだ。本人の許可が出て、取材の日にちまで決まっていたが、直前になってキャンセルされた。理由は、僕の原稿が気にくわなかったからだという。「新シーズンの胸スポンサーが三菱からボーダフォンになる」と書いたが「何の根拠もないでたらめだ」と一蹴された。
しかしすでに決まっていた話で、チームが正式に発表する前に事実が外に漏れたことに怒ったらしい。そして、その怒りが僕に向けられた。犬飼社長としては、サポーターに報告する前に、サポーターが新聞を通じて事実を知ったことが許せなかったのだ。浦和担当になる前、他クラブの社長やJ関係者ら各方面から「犬飼氏はワンマン社長だから、気を付けた方がいいよ」と言われたが、まさにその洗礼を受けた格好となった。
3時間あまりの熊本の夜。同社長から、サポーターのための新鮮な企画やチーム愛など、いろんな話を聞いた。というか、聞かされた。「ほぉ〜。へぇ〜」と、生返事をしながらハシを動かしていた。同社長と席をともにして30分後、知らぬ間に「なるほど」を連発して感心する僕がいることに気付いた。
「真実と誠意は人を動かす」と信じている僕は、同社長のチームに対する熱意に心を許していたのだ。熱い気持ちだけなら、どこの社長もが持っているが、数々のアイデアと行動力もある。サポーターやスタッフ、選手からの信望も厚く、カリスマ性もある。「犬飼ワールド」にはまっていく自分がいる。分かっていながら、抜け出そうとは思わない心地よさ。親会社にアピールしようと「チームだけじゃなくて、オレのこともよく書いてくれよ」と頼むような某チームの社長とは、格が違う。
今まで関東のほとんどのチームを担当してきた僕は「担当クラブのファンになるのはやめよう」と思っていたが「浦和は魅力あるチームだし、まあいいか」と一瞬、甘えてしまおうかとも思った。東京に戻って冷静に考えると、やはりあり得ない話だ。
しかし「犬飼社長の近くで自分を成長させよう」とは思う。
レッズランド設立の企画や大ヒット商品「浦和の涙(焼酎)」発売、新規スポンサーの開拓など、数々の功績を残している。今度は、その引き出しの中からどんなアイデアを出してくるのか。その1つ1つが、大きなニュースにもなる。チームが発表する前に、僕は紙面で発表しようと思う。当然、社長は嫌がるだろうけど。
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盧載鎭(ノ・ゼジン)
スポーツ部。1968年、韓国ソウル生まれの36歳。杏林大卒。88年来日し、96年入社。これまで相撲などを担当し、現在サッカー担当。2度のW杯を取材。
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