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本紙記者コラム「見た・聞いた・思った」
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2004/07/14付紙面より 過去のコラム一覧へ

J向かうは世界基準

スポーツ部 盧載鎭記者

 男の夢。リベンジ。それは、どんな代償を払ってでも果たすべきものなのか。

 サッカー日本代表で鹿島FW柳沢敦(27)が、再びイタリア・セリエAのメッシーナに移籍した。FWの駒不足に悩む鹿島の必死の制止を振り切っての決断だった。

 昨シーズンはセリエAのサンプドリアでFWとしては認められず、MFで15試合に出場して無得点に終わっている。かつての日本のエースが、このまま引き下がるわけにはいかなかったのだろう。

 「イタリアでのもやもやはイタリアで晴らすしかない」。鹿島にわがままを言って、結局、聞いてもらった。

 移籍が正式に決まった夜。久々のアルコールでほおを赤くした彼の口から「ホント、鹿島には感謝しますよ。オレ、鹿島が好きなんですよ。必ず恩返ししますから」と聞いた。

 一方、送りだす鹿島はどんな気持ちなのだろう。牛島洋社長はいう。「子供に勝てる親がいるか? ビジネスとして成立するのが前提だけど、本人から『行きたい』と聞いた瞬間から答えは出ていた」。経営者としては失格かもしれない。目前に迫った第2ステージは再び、FW不足に悩む日々が続くだろう。

 しかし、牛島社長はこう続けた。「クラブの発展のため一番良いのは海外の良い選手を呼んで、若手を向上させること。だけど、今、海外から選手を呼ぶのは財政的に難しい。それなら日本人を海外に送って、良いものを持ち帰ってもらうしかない」。

 柳沢がイタリアで成功すれば、現役中は日本に戻らないこともある。指導者として鹿島に戻る保証もない。しかし、それでも送り出すのは、お互いに言葉で確認しなくても分かるものがあるからだ。牛島社長は柳沢が将来的には必ず帰ってくると確信している。それは日ごろのクラブの姿勢に表れている。

 昨季終了後にJリーグが開いたトライアウト(解雇された選手のアピール場)に、鹿島からは1人も出なかった。4人を解雇したが、すでに全員の再就職先のメドが立っていた。高校や大学から獲得した選手を最後まで面倒を見る。他クラブに移籍していた奥野、黒崎も指導者として戻った。生涯鹿島の図式が、出来上がりつつあるのだ。

 過去、代表クラスの日本人選手は10人以上、海外に移籍した。その中にはJリーグクラブにとって望ましくない移籍もあった。国内で移籍するなら移籍金4億円は下らない選手がわずか20分の1以下の違約金だけで、海外に移籍したケースがある。選手のわがままだけが先行し、まったく移籍金が取れなかったクラブもある。

 果たしてそういう選手はクラブに恩義を感じているのだろうか。海外で蓄積した経験を将来、元所属のクラブに還元したいと思っているのだろうか。当然、選手に信頼されないクラブにも問題はある。

 これからはもっと海外移籍が活性化する。まだ遅くない。過去の悪い前例を払拭し、世界に通用するリーグを作るために、各クラブが姿勢を足元から見つめ直す必要もある。

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盧載鎭(ノ・ゼジン)
 スポーツ部。1968年韓国ソウル生まれの35歳。杏林大卒。88年来日し、96年入社。相撲などを担当し、現在サッカー担当。2度のW杯を取材。
飯島記者の写真

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