Le Petit Prince の著作権

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 内藤 濯さんが翻訳した「星の王子さま」の翻訳著作権については、極めて明解です。岩波書店から「星の王子さま」が出版されたのが1953年3月15日。ふたつの意味で極めて微妙な時期・期間なのですが、詳しい内容は別項に譲って、とにかく翻訳者の死後50年間の権利保護が受けられます。内藤さんは1977年にお亡くなりになりましたから、その翌年から数えて50年目の2027年12月31日まで、著作権が保護されます。


 サンテグジュペリは1944年7月31日消息を絶ち、翌1945年9月20日になって、法律的に死亡が認知されました。したがって、単純計算では、1994年12月31日で彼の遺族が継承する著作権の保護期間が終了します。しかし、現実はこれほど簡単にはゆきません。

日本の特殊事情
 第二次世界大戦中、日本は枢軸国の一員として連合国と敵対関係にありました。この間、連合国に属する国の作家の作品は著作権が保護されていなかったものと見なされ、戦争状態にあった期間分が延長されます。これを著作権存続期間の戦時加算といいます。この「戦争状態」が終了したのは、平和条約が批准された日です。
 サンテグジュペリは戦争中に作品を発表し、戦争中に死亡しましたから、戦時加算分は作品発表から起算するのが妥当であろうと思われます。日仏間の戦時加算は、開戦時から算定して3,794日とされますから、初版本発売までの約1年3箇月(483日)を差し引けば、約9年1箇月(3311日)が加算分と概算されます。【あくまでも概算です。閏年の有無および、起算日が当日か翌日かのチェックを行っておりません。】
 

 したがって、2004年1月下旬(25日前後)までが(日本における)Le Petit Prince の保護期間となります。【上記括弧内の事情によって、正確な日付はこの前後になるものと思われます。】

   国際的な保護期間の取り決めについては「短い国の方に従う」ことを、広田さんからお教え戴きました。これにしたがって煩雑だった旧ページの一部を削除・一部を下記囲み欄に移動し、ご指摘いただいた誤りを訂正しました。
 広田さん、ありがとうございました。

岩波書店および株式会社フランス著作権事務所の見解

 岩波書店および株式会社フランス著作権事務所は、私の考えとは異なった見解をとっていることが判りました。

 1944年7月30日〜翌45年9月20日までの間は消息不明期間として扱う為、死亡とはみなさない。したがって、「サン・テグジュペリの死亡は1945年」

というものです。【これで計算すると、1943年4月6日発効・戦時加算3310 日として、2005年1月22日に終了します。】

 日本におけるサンテックスの著作権は「戦時加算」によって延長されています。戦時加算なしの著作権保護期間はとうに終わっているのですから、単純な計算ではすまされません。実際の死亡時期と法律上の「失踪認定(死亡と同等に扱う)」、すなわち1945年9月20日までの期間も、死亡後の著作権保護期間も共に、この 「著作権が保護されていなかった」「戦時加算」に含まれていますから、上記の「見解」は、単なる1年間の延長でことを済ますことをできなくします。そもそも、著者が法的な失踪状態にある場合、著作権は保護されるのか否か判例を調べてみる必要がありましょう。もし、その期間中は保護が停止されるのであれば、著作権の保護期間は私が算定した時期よりも短くなります。【著作権の死後保護期間は1年単位です。死亡時期が1944年から1945年に変わっても、一年あとの12月31日で保護期間が終了し、違いは1年間だけです。それに対し、戦時加算は日数で計算されます。もし失踪期間中は諸権利が停止されるのであれば、1944年7月31日と1945年9月20日までの差、416日間は戦時加算から差し引かれなければなりません。つまり、保護期間は1年以上短くなり、2003年の12月はじめに終了するわけです。】

 フランス軍では、1944年9月8日付で(サンテックスの)“ACTE DE DISPARITION”という書類が発行され、1944年9月13日に受理されています。発行者はJ.M.MORTIER(サンテックスの「正式の所属先」である第31爆撃連隊の連隊長)で、彼と、書類受理者と思われる他の2名の軍用ゴム印・署名がある公式のものです。フランス語の“disparition”には「行方不明(軍事用語では「未帰還」)」「死亡」の両方の意味があるので、“ACTE DE DISPARITION”を日本語でどう訳すべきかは微妙な点が残りますが、この時点では「死亡」が確認されているわけではないので、「未帰還」が正当でしょう。いずれにせよ通常ならば、これをもって「戦死公報」発行の手続きがとられます。
 現在ではサンテックス乗機の残骸も確認され、この“ACTE DE DISPARITION”と併せて1944年7月30日の死亡は確定的ですから、裁判所の「失踪認定」そのものも、失効訴訟が可能ですが、その必要があるとは思われません。
 「著作権」は民法上の規定であり、訴訟になって初めて裁判所が判断する問題です。現時点までそのような係争は起こっておらず、岩波書店やフランス著作権事務所が主張する時期までもうたいした日数は残っておりませんから、このまま時間経過に任せれば、何事もなく終わると思われ、とりたてて問題にすることもないでしょう。

 岩波書店とフランス著作権事務所の見解については、創造演戯研究所 あしだ さんからお教え頂いたものです。
 あしださん、ありがとうございました。

2004年12月5日追加


フランスの特殊事情
 1948年4月、サンテグジュペリは「祖国のために死んだ」と正式に認定されました。フランスの法律によって、フランスの作家がフランスのために死んだ場合、その著作権(死後70年)は30年間延長されることになっています。したがって、少なくともフランス国内では、彼の著作権は2043年(1944年死亡ならば2044年)12月31日まで保護されます。【万一、彼の死因が「自殺」であると確定したら、「祖国のために死んだ」わけではありませんから、この延長はなくなってしまうことでしょう。著作権を相続しているダゲー家にとって、経済的な痛手は計り知れぬものがあります。】

フランスの著作権保護期間
 現在のフランス著作権法による著作権保護期間は「死後70年間」であることが判りましたので、上記の記述を、2024年 ⇒ 2043年に改めました。(2005.06.10)

アメリカの特殊事情
 Le Petit Prince および The Little Prince はともにアメリカで初版本が発行されました。したがって、「合衆国の本」としてアメリカの法律に縛られることになるのが通例ですが、フランス語で書かれた著作権に関しては、フランスが開放された時点でサンテックス本人(失踪状態なので彼の遺族)に返されているので、アメリカの著作権法は適用されません。Katherine Woods さんの英語訳に関しては、アメリカの法律が適用されます。
 アメリカはベルヌ条約への加盟が遅れたので、計算が厄介なことが多いのですが、The Little Prince に関しては単純です。日本語への翻訳権に関しては、上記の戦時加算を加えて、英語版の発行後19年1箇月で翻訳権が消滅しました。その期間中に英語版からの翻訳は行なわれておりませんから、(仮にそのような企画があったとしても)もはや“Katherine Woods 版からの”翻訳権が問題になることはありません。(これとは別に、原作であるサンテックスの著作権が絡みます。)
 Katherine Woods さんは1968年にお亡くなりになりましたから、その翻訳著作権は70年間* 、2038年末まで存続します。つまり、英語版そのものを複製することはできません。

* アメリカの著作権保護期間
 係争中であった違憲裁判が決着して、アメリカの著作権保護期間は、法人が95年間,個人が70年間となりました。
バーチャルネット法律娘 真紀奈17歳さんのページが判りやすいのでご参照ください。 (2005.06.10)


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