◎県都に高層住宅 都心の活性化につなげたい
金沢駅近くで建設が始まった高層マンションは、高齢化社会にふさわしいサービスを売
り物にしている点で興味深い。これまでのマンションの「管理人」ではなく、ごみ出しやクリーニングの取り次ぎなどを手伝うホテルふうの「コンシェルジュ(案内人)」を置き、医療サービスのサポートもするという。高齢者に至れり尽くせりのマンションは、地方都市で第二の人生を送りたいと考える人々を呼び込む力になるだろう。
北陸新幹線の金沢開業をにらんで、金沢市や富山市では、このところマンション建設が
活発化している。県外在住の富裕層の心をつかみ、この地に定住してもらうには、施設が良いだけではだめだ。初めての土地でも不自由なく暮らせるだけの生活支援が必要であり、行政も民間のアイデアを積極的に後押しし、市街地の活性化につなげる必要がある。シルバー層にとって魅力的な高層マンションが金沢の新たな顔に育っていくことを期待したい。
県外の業者が金沢駅東口側で着工した高層マンションは十九階建てで、豪華な共用施設
を備えている。注目すべきは、市街を一望できる眺めの良さや施設の立派さではなく、ソフト面での充実度にある。
高級ホテルには、宿泊者の要望に応じてレストランや演劇の予約、さまざまな相談ごと
に応じてくれるコンシェルジュがいる。このマンションも似たサービスを売りものにしており、近くのホテルから料理の宅配サービスを頼んだり、宅配便の受け取りや車の手配など、細やかなサービスが受けられる。
ホテル並みの世話をしてくれるマンションは現在、首都圏に多く、シルバー世代の富裕
層に人気がある。親戚縁者のいない土地でも十分なサービスが受けられ、安心して生活できるマンションが北陸にできれば、わざわざ都会に住まなくてもよいと考える人は増えるのではないか。
豊かな自然を前面に出して、都会からの移住を勧誘するのもいいが、地方都市の暮らし
やすさは、それだけではない。都会以上に優れた居住環境、都会と変わらぬ生活の質の高さ、静かで美しい街並みは北陸の諸都市の特長である。ホテル型のマンションは、地方都市の魅力を引き出すカギの一つになりそうだ。
◎海のカーナビ開発 実用化急ぎ普及促そう
千葉県野島崎沖でのイージス艦と小型漁船との衝突事故や、神戸市沖の明石海峡での三
隻衝突による貨物船沈没事故など、日本沿岸の混雑海域で海難事故が絶えないことから、海上保安庁は事故防止の一環として、いわば“海のカーナビゲーション”を開発し、五年以内の実用化を目指すことにした。
海のカーナビというのは車のそれと原理が同じだからであり、正式には小型船用に開発
する電子航行支援システム(ENSS)だ。時宜にかなったアイデアであり、実用化を急ぎ、普及を促したい。
カーナビに似たものとしては、すでに大型船に装備されている電子海図表示システム(
ECDIS)や、三百トン以上の外航船と五百トン以上の内航船に搭載が義務付けられている国際船舶自動識別装置(AIS)があるが、小型船用の安価なものが実用化して普及すれば、海の安全を向上させることができ、海難事故をより減らすことにつながっていく。
イージス艦「あたご」と衝突して真二つになり沈没した漁船「清徳丸」は小型漁船安全
規則に定められた通りの灯火を装備していた。あるいはという話になるが、清徳丸が、もし海のカーナビを搭載していたら、衝突を防ぐことができたかもしれないのである。
それにしても強調したいのは、海難事故の六割から七割までがヒューマンエラーで起き
ているという事実である。いかに性能の優れた装備を持っていても、それを担当している人間が見なかったり、あるいは見誤ったりすれば、役に立たないということを忘れてならないのだ。
折しも、防衛省は衝突事故の中間報告を公表した。見張り員が事故の三十分以上前に漁
船団に気付きながら、事故一分前まで清徳丸の存在を確認できなかったとし、見張り員が甲板に出ていなかったり、レーダー要員の配置が少なかったりしたことなどを初めて明らかにした。イージス艦は高度な性能を持ちながら、ヒューマンエラーが介在して衝突事故になったことを示唆するものではないか。事故をなくしていくには、装備を改善していくことと、ヒューマンエラーを減らしていくことの双方が不可欠なのである。