現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月22日(土曜日)付 イージス事故―こんなにお粗末とはある程度予想はしていたが、信じられないほどの組織のたるみである。 海上自衛隊のイージス艦が漁船に衝突した事故について、防衛省の中間報告がまとまった。衝突の30分以上前に当直員が漁船団らしい灯火群を見つけていたのに、何も手を打たないまま進み、衝突直前にあわてふためいていた。 衝突を避ける義務はイージス艦にあったが、適切な見張りをしておらず、回避措置も不十分だった可能性が高い。報告書はそう指摘し、イージス艦のミスを正式に認めた。 防衛省はこれまで、最初に漁船に気づいたのは衝突の「2分前」「12分前」などと説明してきた。これに対し、漁船団の船長たちからは「もっと早く気づいていたはずだ」との声が出ていた。その指摘が正しかったことになる。 30分も前に漁船を見つけていたのなら、間違いなく衝突を防ぐことができたはずだ。ところが、艦内が危険を感じて騒ぎ出すのは衝突まぎわである。「この漁船近いなあ」「近い、近い」と言い合うころには、漁船はすでに100メートル先まで迫っていたというのだから、あきれるほかない。 なぜ、こんなことになったのか。 灯火群に気づいた見張り員は2度にわたって当直士官に伝えた。当直士官がどう判断したのかは、今回の中間報告には書かれていない。だが、少なくとも、見張り員たちに注意をうながす指示を出したような形跡はない。当直士官の責任は重いといわざるをえない。 ちょうど当直員の交代時刻だった。灯火の方向や動きから「危険はない」と引き継いだ当直員もいる。こうした当直員の判断の甘さも見逃せない。 交代前の当直員たちは、本来の決まりより少なかった。レーダーがあったのに、ぶつかった漁船をレーダーで確認したという乗組員の証言もない。 まだ解明すべき点はいくつもあるが、今回の中間報告だけでも自衛艦のあまりにもひどい対応がはっきりした。 防衛省は海上幕僚長の更迭を含む人事と処分も発表した。これらは主にイージスシステムの情報漏出や護衛艦「しらね」の火災の責任を問うものだ。今回の事故をめぐっては管理責任などが問われるにとどまり、乗組員の処分は持ち越された。 衝突事故の総括をするのは、海上保安庁の捜査結果が出てからになるだろう。その際、大事なのは、事故を生んだ構造的問題にメスを入れることだ。 最新鋭のハイテクに頼り切りで、隊員の士気や練度に問題はないか。米軍の戦略上の要請に応えるために、使いこなせない装備を抱えていないか。イラクやインド洋への派遣といった華々しさの陰で自衛隊は無理を重ねていないか。 そうしたことを厳しく点検し、改めない限り、今回のようなお粗末な事故はなくならない。 道路財源修正―与野党は協議に入れ重い重い腰を、福田首相がやっと上げた。道路特定財源の問題で、野党と修正協議に入るよう与党に指示した。 ガソリン暫定税率の期限が切れる3月末まで、残すところあと10日。このまま手をこまぬいていれば、ガソリンが1リットルあたり25円下がり、国と地方の歳入に2兆6千億円もの穴があく。 衆院議席の3分の2を使って暫定税率を元に戻す手もなくはないが、ガソリン価格の変動は国民のくらしに大きく影響する。日銀総裁人事の失態につづきまたかじ取りに失敗したとなれば、首相への国民の信頼は失墜しかねない。 残された短い時間で、今度こそ指導力を発揮できるか。首相はがけっぷちに立っている。 与党が示した修正案のポイントはこうだ。民主党の要求のうち、暫定税率の撤廃は認めない。その代わり、道路特定財源は一般財源化に向けて見直す。 国と地方の危機的な財政状況を考えれば、暫定税率は維持するしかない。その点で与党の案に私たちも同感だ。一方、ムダや利権の温床となっている道路特定財源は廃止し、福祉や教育など何にでも使える一般財源にすべきだ。こちらは民主党の主張に賛成する。 ここをどう解きほぐすか。首相がなすべきことは明白だ。暫定税率の維持を優先させ、その代わり、一般財源化では野党へ大胆に歩み寄ることだ。 と考えると、一般財源化をめぐる首相の発言はどうにも及び腰に過ぎる。 一般財源化の範囲について「全額も視野に入れて検討する」と首相はいう。だが、「視野に入れて」とか「検討する」という表現は、結論を先送りするお役所言葉の典型ではないか。一般財源化の時期や範囲を法律などに明記しなければ、国民の納得はえられまい。 ただでさえ、一般財源化には自民党の道路族から強力な抵抗がある。指導力を売り物にしていた小泉元首相でさえ断念したいわくつきの難題なのだ。 いまの福田首相にとって、ハードルはさらに高いだろう。もっともっと踏み込んで国民を味方につけ、野党の協力を得なければ、立ち往生は必至だ。 民主党にも注文がある。なにがなんでも暫定税率を撤廃させて福田政権を追い込む、といった態度は慎むことだ。 民主党は当初こそ「ガソリン値下げ」に照準を合わせたが、批判を浴びて「一般財源化」に軸足を移した。それなのに政権の旗色が悪いとみるや再び「ガソリン値下げ」に回帰するとしたら、あまりにご都合主義というものだろう。 たとえば、ガソリン税などの一部を環境税へ組み替えていくことを条件に、暫定税率の維持を受け入れる。接点を見いだすための知恵と工夫がほしい。 「年度内の結論」という衆参両院議長のあっせんが無に帰せば、政治への国民の信頼はさらに失われよう。与野党は修正協議のテーブルに着くべきだ。 PR情報 |
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