【ジョンソン宇宙センター(米テキサス州)永山悦子】国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の土井隆雄・宇宙飛行士(53)が米中部時間17日深夜(日本時間18日午後)、ブーメランを飛ばす実験に挑戦した。重力のほとんどない宇宙では元には戻ってこないとの見方も多かったが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の関係者に土井さんから届いたメールによると、「8日目の任務終了後に飛ばしたところ、ちゃんと戻ってきた」という。
土井さんはISSの中でも比較的広い米国の実験棟内で、ブーメランの世界チャンピオン、栂井(とがい)靖弘さん(36)=大阪府在住=が作った紙製ブーメランを投げた。どのように飛んだかは不明だが、地上に届いた写真などから、ブーメランを立てた状態で投げ、手元に戻ってきたとみられる。妻ひとみさんとの交信では「地上と同じように飛び、非常に驚き感激した」と語ったという。
ブーメランが戻ってくる仕組みには、重力も関与していると考えられてきた。このため、「重力がほとんどない宇宙では上へ行ってしまうのではないか」と見る人も多かった。
実験は栂井さんが土井さんに依頼。打ち上げ直前には、土井さんから投げ方や翼の調整方法に関する問い合わせも届いていた。
栂井さんは「私が作ったブーメランが宇宙で舞い、戻ってきたことは、言葉で表現できないくらいうれしい。戻ってくる仕組みに重力があまり関与していない可能性や、土井さんが宇宙向けに翼の傾きなどを調整していた可能性もあり、ブーメランの新たな魅力が広がりそうだ」と声を弾ませた。
◇母校の中学生らとテレビ電話で交信--首相官邸で
土井さんは20日、首相官邸大ホールに集まった福田康夫首相や母校の中学生らと約20分間、テレビ電話で交信した。福田首相が「第1段階の完成おめでとうございます」と祝福すると、土井さんは日本初の有人宇宙施設「きぼう」の保管室の前から、「きぼうからこんにちは。日本の皆さんの夢が詰まったきぼうを設置できてうれしい」と返答。「4畳半ぐらいの広さ。細胞培養の実験ラックなど8個のラックがあります」と保管室を紹介した。
福田首相らは、土井さんが持っていった日本そばなどの宇宙食を試食。土井さんがISSで焼き鳥が好評だと紹介すると、福田首相は「これからも新しい日本食を開発するので、楽しみにしてください」と話した。
土井さんの母校、甲府市立東中の生徒5人も参加した。1年生の簗田淳さん(13)が「ロボットアームの操作で緊張したのはどういう時ですか」と尋ねると、土井さんは「(スペースシャトルから)きぼうを初めて宇宙空間へ出す瞬間です」と答えた。さらに「宇宙から見ると地球は素晴らしく美しい星。美しいまま保っていかないといけない」と語った。【関東晋慈】
毎日新聞 2008年3月21日 東京朝刊