マスコミの編集幹部が数人集まった会合で、だれかが言った。「いまさらだけど、日銀総裁って、大事な仕事なのかな?」
「通貨の番人」も「物価の番人」も、確かにピンとこない。自民党は、だれでも務まるとばかりに、泥縄的に後任人事の差し替えをやった。とうとう戦後初の空席になったが、市場の動揺を増幅するようなことは起きていない。
かつて、中央銀行とそのトップの役割についてこんな説明を受けたことがある。
人は本能や欲望、気分で動く。飲みすぎたり、食べすぎたり。悲嘆にくれて絶望することもある。それにブレーキをかけ、時に鼓舞するのが理性だ。同じように経済活動にも理性が必要で、それが担うべき役割なのだ--と。
きれいごとすぎると思った。だが、うなずける面もある。現実には難しくても、日銀と日銀総裁がそういう方向を目指そうとしているのは、世の中にある種の安定感と希望をもたらす。
ところが、澄田智、三重野康、松下康雄、速水優、福井俊彦氏といった歴代総裁は、どうだったのか。心掛けていたかもしれないが、国民にはほとんど届いていない。多くの人たちの評価は「大事な仕事なの?」である。
空席の直接の責任は政治にある。だが、こんな状況を許したうえ、経済界を除けば、たいして援護もない空気を作りあげた歴代総裁の責任こそ重い。特に福井氏は、後任に仕事をスムーズに引き継ぐという組織の長として当然の職務を果たせずに終わった。花束を手に職場を去る姿に苦いものがこみ上げてきた。
毎日新聞 2008年3月21日 0時02分
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