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第16回 プロバイダー責任制限法 掲示板運営時の法的義務を知る

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電子掲示板に他人の権利を侵害する書き込みがあった場合,掲示板運営者の対応の仕方によっては損害賠償責任が生じる場合がある。掲示板を運営する場合は,「プロバイダー責任制限法」などの関連法律を十分に理解しておく必要がある。

 2001年1月ころに,インターネット掲示板「2ちゃんねる」の「悪徳動物病院告発スレッド」で,ある動物病院とその代表者である獣医の名誉を毀損する複数の書き込みがあった(図1)。

図1●動物病院事件で名誉毀損とされた書き込み
図1●動物病院事件で名誉毀損とされた書き込み

 動物病院と獣医が,2ちゃんねるの運営・管理者である西村博之氏に書き込みの削除を要求したが拒絶されたため,西村氏に書き込みの削除と500万円の損害賠償を請求する訴訟を起こした。

 これに対し西村氏は,「書き込みが真実かどうか不明な場合には,表現の自由を保障する見地から,書き込みを削除しなくても違法ではない」と反論。東京地裁は,「掲示板の運営・管理者は,他人の名誉を毀損する書き込みがあることを知った場合,または知り得た場合には,直ちに書き込み削除などの措置を取る条理上の義務を負っている。書き込みが真実かどうか不明であることを理由に削除義務を免れることはない」と判断し,発言を削除しなかった西村氏に対して,書き込みの削除と400万円の損害賠償を命じた。(東京地方裁判所2002年6月26日判決,判例タイムズ1110号92頁)

 今回は,電子掲示板の運営・管理者に生じる法的義務について解説したい。

 掲示板に他人の権利を侵害する書き込みがあるにもかかわらずこれを放置した場合,損害賠償請求を受けることがある。掲示板運営者にかかわる法的な義務について,正確に理解しておいて欲しい。

不法行為に問われる

 インターネット上でサービスを提供する事業者は,(1)自らがコンテンツを提供する「コンテンツ・プロバイダ」と,(2)自分は情報を発信せず,情報発信者と受信者を媒介する「アクセス・プロバイダ」に分類できる。電子掲示板の運営者は一般に,(2)のアクセス・プロバイダに当たる。

 コンテンツ・プロバイダが,違法な情報や他人の権利を侵害する情報の発信について責任を負うのは当然である。ここで言う他人の権利には,「名誉権」(自分に対する社会的な評価を不当に貶められない権利)や「プライバシーの権利」(第14回参照),「氏名権」(自分の氏名を独占的に使用する権利),「著作権」(第3回参照),「営業秘密」(第6回参照)などがある(図2)。

図2●掲示板の書き込みで侵害される恐れのある権利
図2●掲示板の書き込みで侵害される恐れのある権利

 しかし,アクセス・プロバイダは情報発信者ではない。このため,情報の内容までは法的責任を負わないのが原則である。この原則は,ニフティサーブ事件判決でも確認されている(東京高等裁判所2001年9月5日判決,判例タイムズ1088号94頁)。

 ニフティサーブ事件は,掲示板で誹謗中傷を受けた女性が書き込みを行った大学講師を名誉毀損で訴えたもので,裁判所は大学講師に対しては損害賠償を命じたが,掲示板の運営者であるニフティには損害賠償義務はないと判断した(第13回参照)。

 とはいえ,掲示板に他人の権利を侵害する書き込みがあることを知りながら,運営者であるアクセス・プロバイダが削除せずに放置すると,「故意または過失により他人の権利を侵害した」として民法上の「不法行為責任」を負うことになる。冒頭の動物病院事件は,この点を明確にした判決と言える。

プロバイダーの責任を制限

 ただし,不法行為責任を負うのを避けるために,アクセス・プロバイダが安易に書き込みを削除すると,今度は「表現の自由を侵害した」,「サービス契約に違反した」といった理由で,発言者側から訴えられる恐れがある。こうした板挟み状態に直面したアクセス・プロバイダの責任を軽減するために2002年に制定されたのが,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)」である。

 この法律では,アクセス・プロバイダのことを「特定電気通信役務提供者」と呼んでいるが,その範囲は広い。企業か個人かは問わないし,営利事業ではなく非営利で掲示板を運営している場合も,特定電気通信役務提供者とみなされる。

 プロバイダー責任制限法は,被害者から削除要求があったことを発言者に通知し,7日以内に発言者が異議を唱えなければ,プロバイダが書き込みを削除しても発言者に対して一切の責任を負う必要はない,と定めている。これにより,他人の権利を侵害する書き込みを削除しやすくなった。

 また,被害者に対して損害賠償などの責任を負う条件も,「書き込みが権利を侵害していることを知ることができ,かつ削除が技術的に可能であるのに削除しなかった場合に限られる」と,明確に規定した(第3条)。

発言者情報開示の条件

 掲示板の書き込みは通常,匿名で行われることが多い。このため,権利を侵害された被害者が発信者に対して損害賠償を請求する際には,発信者の住所・氏名をプロバイダに開示してもらう必要がある。

 しかしプロバイダが発言者情報を開示すると,発信者の側からプライバシや「表現の自由」,「通信の秘密」を侵害したと抗議され,場合によっては法的責任を追及されることも起きてしまう。

 そこで,プロバイダー責任制限法は,プロバイダが発言者情報を開示する条件も明確にした。書き込みによって権利を侵害されたことが明らかであり,発言者情報の開示を受ける正当な理由があるときに限り,被害者が発信者情報の開示を請求できる,としたのである。ただし,プロバイダが判断に迷って開示を拒否したとしても,重大な過失がない限り,損害賠償の責任を負わないと定めている(第4条)。

 プロバイダー責任制限法により,書き込みの削除や発言者情報の開示に関する条件はある程度明確になった。しかし,実際問題として名誉権侵害などの権利侵害の有無の判断は難しいことも多い。問題が起こった場合は,まずは弁護士と相談したうえで対応するのが賢明である。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事

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 [2008/03/21]



出典:日経ITプロフェッショナル 2003年9月号 116ページより
(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


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