中国のチベット自治区ラサで発生した大規模暴動は一向に沈静化の兆しをみせない。それどころか、四川省など国内やインドなど周辺のチベット民族居住地域にも拡大している。
多数の死傷者が出ている。警察が暴動に関連してチベット民族の住居を一軒ずつ捜索し、拘束を始めているとも伝えられる。憂慮すべき事態だ。
中国政府は北京五輪成功のために早期制圧を目指したいところだろう。しかし、力による抑え込みは五輪の理念に反する。今のところ国際社会は、政治・社会問題と五輪を切り離す姿勢は崩していない。
しかし、これ以上に事態が拡大、深刻化するとボイコットする国が出てくることも考えられる。それは中国も望まないだろう。中国政府は、過剰な警備や人権を無視した捜査をしないよう地元当局を指導すべきだ。
情報が少ないため、今回の暴動が計画された組織的なものなのか、また偶発的に起こったのかなどの詳細は不明で、中国は国際社会に説明すべきだ。
青海省のチベット族自治州では二月末から武装警察との衝突が続いているという。背景に中国の統治に対するチベット民族の長年の不満があるのは間違いない。
米国などはチベット問題など中国の人権状況をこれまでも批判してきた。住民側には五輪を前に国際社会の関心を集めようとの意図があったのだろう。
一九五一年に人民解放軍が進駐して以降、ラサではチベット民族の抗議行動が絶えない。
五九年の動乱ではチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世がインドに亡命した。八〇年代には独立を求めるデモが頻発し、八九年三月の暴動では戒厳令が出され、十六人が犠牲になっている。
八九年暴動の武力鎮圧の先頭に立ったのが、現在の胡錦濤国家主席だった。これがその後の昇進につながったとされるが、力のみで統治できないのは今回の暴動が証明していよう。
チベット自治区は中国政府のテコ入れで急速に発展している。しかし、それはチベットの漢民族化と裏腹で住民の反発を招いているそうだ。
ダライ・ラマも「このままではチベット文化は十五年で消滅する」と危機感を表明している。武力での鎮圧や開発主導では問題は解決しない。住民とじっくり向き合うこと必要だ。
中国政府はダライ・ラマとの対話再開も急ぐべきだ。「独立を求める分裂主義」と批判するが、ダライ・ラマが求めているのは独立ではなく高度な自治とされる。チベット問題の根本解決のためには両者の対話が欠かせない。
中国はチベットだけでなく、新疆ウイグル自治区などでも同様の問題を抱えている。民族と宗教問題が絡んでおり、対応を誤れば各地で問題が噴き出しかねない。
従来同様に、中国は力で鎮圧する手段しか持ち得ないのか。国際社会の中での中国の力量が試されている。