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障害偽装・年金不正疑惑 社保庁が調査開始

2008年03月18日

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札幌市が交付している障害者手帳(見本)。聴覚障害2級の手帳取得者は医療費の助成や税金の減免が受けられる

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■「制度の大前提崩れる」

 聴覚障害をめぐる大規模な偽装疑惑は、手帳の取得だけでなく、障害年金の受給でも浮上した。札幌市の耳鼻科医(73)の診断で最重度の「聴覚障害2級」の手帳を得た人のうち、少なくとも約60人について、障害年金も受給していたことがわかった。国民年金加入者を対象にした障害基礎年金の支給は年額99万100円。厚生年金加入者を対象にした障害厚生年金だと年額百数十万円。総額で数億円が不正に支払われていた疑いがあるという。事態を重視した社会保険庁は、北海道社会保険事務局に指示して実態調査を始めた。

 「特定の医師とはいえ、仮に不適切な診断によって障害年金が支給されていたとしたら、制度の大前提が崩れてしまう」

 「これほどまでに大規模な不正疑惑は聞いたことがない」

 17日、東京・霞が関。社会保険庁の幹部はこう語った。障害年金行政の屋台骨が揺るぎかねない事態ではないか――。同庁には、こんな焦りがある。

 調査の指示を受けた、出先機関の道社会保険事務局は「現段階ではコメントできない」と述べるにとどまった。

 社会保険庁が所管する障害年金は、都道府県や政令指定都市などが所管する障害者手帳とは別の制度で、申請は別に行わなければならない。

 障害年金の申請に当たっては、初診から1年6カ月後に再び診断を受け、医師から障害の程度の判断を仰ぐ必要がある。その後、国の認定医が判定することになっている。

 障害年金の不正受給の疑惑は、申請手続きを代行した札幌市の社会保険労務士(66)の証言で浮上した。

 この社労士によると、知り合いだった「ブローカー」の一人の依頼を受け、札幌市の耳鼻科医の診断をもとに、99年以降、約300人について最重度の聴覚障害2級の手帳の手続きを代行した。そしてさらに、約60人については障害年金の手続きも請け負い、認められたという。

 約60人のうち50人余りが受給したのは障害基礎年金で、残りの1割程度は障害厚生年金。社労士は、1人につき年金1カ月分を手数料として受け取っていたという。

 これ以外にも障害年金を申請しようとしたというが、保険料の未納で受給資格が無い人が多かったという。

 社労士は「不正に加担したつもりは無かった。医師の診断が出ている以上、疑うことはできないと思った」と話す。

 そして、こうも言う。「1人の医師の判断だけで障害認定が事実上決まってしまう現在の制度には欠陥があると思うようになった。複数の医師でチェックする制度が必要ではないか」

 問題の医師のもとで障害を認定された人の中には、認定後も定期的に通院して治療を受けるよう医師から指示を受けた人も多い。

 福祉行政の経験が長い道内の自治体職員は「固定的に通院してくれる患者が増えれば、当然医院の利益は上がるだろう。医師にもメリットはあったはずだ」と話す。

    ◇

■手帳返還車7割の486人 17日現在

 札幌市の耳鼻科医の診断で聴覚障害の手帳を取得し、返還した人の数は17日現在で486人に上ったことが、朝日新聞の調べで分かった。

 道などによると、710人について、この医師の診断で手帳が交付されたことが確認されている。まだ二百数十人の結論が出ていない現時点で、すでに全体の7割近くが手帳を返還する異常な事態になっている。

 返還者を自治体別にみると、芦別市が195人、赤平市が84人、札幌市が54人など。最重度の「聴覚障害2級」は芦別市が193人、赤平市が82人、札幌市が48人と、返還者のほとんどを占めている。

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