中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし・健康 > 健康一覧 > 記事

ここから本文

【健康】

肝臓がんの最新治療(下) 根治療法で肝機能も回復

2008年3月21日

 ドナー(提供者)の肝臓の一部を切除し、レシピエント(移植を受ける患者)の肝臓を摘出して移植する−。生体肝移植は、肝臓の一部を切除しても再生して機能と大きさを回復する特徴を生かした根治療法だ。

 神奈川県逗子市の不動産業伊東寛さん(59)は二〇〇五年、東京大医学部付属病院(東京都文京区)で移植を受けた。ドナーは二男の励(れい)さん(26)だった。

 C型肝炎から肝硬変を経て四十三歳のときにがんになった。手術を受けたが、十年余りで再発。その後も治療を続けたが、肝機能が衰えてむくみや腹水も出始めた。

 「治療しても一−二年。助かるには肝移植しかない」。こう告げられたのは〇四年。同年から肝臓がん治療の生体肝移植に健康保険が適用された。伊東さんは同保険による生体肝移植の適用条件(がんの大きさが五センチ以下の単発または三センチ以下が三個以内)に該当していた。「周りに大変な思いをさせていいのか」と悩んだが、励さんは迷わなかった。「国内で生体肝移植が始まったときから、父親に肝臓を提供する覚悟だった」。半年がかりで体重を約十五キロ落とし、脂肪肝を改善した。

 当日は伊東さんの手術から始まった。周辺に転移がないことを確認してから隣室で励さんの肝臓の右葉を切除し、伊東さんの肝臓を摘出して移植した。手術時間は約二十時間(励さんは約八時間)だった。一カ月半後に退院した。

 術後一年間は免疫抑制剤などの副作用(発熱や味覚異常など)に苦しんだが、健康体を取り戻した。励さんは手術後九日で退院し、その約一カ月後に社会復帰した。治療費は健康保険の三割負担で約四百六十万円。このうち高額療養費として約二百四十万円、民間生命保険から約百六十万円の給付を受け、実際の自己負担は約六十万円だった。

 国内で生体肝移植が始まったのは一九八九年。外科医らでつくる日本肝移植研究会によると実施件数は年々増加し、二〇〇五年は五百六十二件、累計は約三千八百件になった。脳死からの肝移植の累計三十三件を大きく上回る。同病院では〇七年までに約四百件を実施し、このうち約八十件が肝がんだった。肝胆膵(すい)外科の国土典宏教授は「がんの発生場所を取り去り、肝機能も回復できる」と語る。

 治療成績は同病院の場合、五年生存率が75%、五年以内の再発率が11%。ただ、成功しても、多くは免疫抑制剤を一生服用し、感染症にかかりやすい傾向がある。またC型肝炎が原因の場合、肝臓を入れ替えてもウイルスが血液中に残って再発するケースがあり、B型肝炎などが原因の場合に比べ生存率は少し下がるという。

 同病院で移植を受けられるのは六十五歳以下。ドナーは自発的な意志のある二十−六十五歳で、三親等以内の血縁か配偶者。血液型や持病の有無など移植には条件がある。国土教授は「高齢者は受けられないが、一定の基準を満たしていれば移植も選択肢になる。主治医に相談してみて」と助言する。名古屋大、京都大の付属病院などでも行われている。 (杉戸祐子)

 

この記事を印刷する

広告